第6話 突破口を探して

「魔王の、娘?」

 思わぬ言葉にリクタスが驚くと、エルノアは慌てたように手を振る。


「あ、だからって、魔王になるつもりなんてないよ?……まぁ、なろうったって、全然実力もないからどっちみち無理だし」

 と少女は苦笑した。



 リクタスたちは出口を捜して歩くことにした。

 その道すがら、エレノアは自分の身の上について語った。


 15年前、魔王と人間の女性の間に生まれたこと。

 生まれて間もなく母は亡くなり、地上の孤児院に預けられたこと。

 一カ月ほど前に”魔廷“からの使いが来て、魔界へと招かれたこと……


「最初は、単純に身元を引き受けてもらえたのかなって思ってたの。でも実際はそうじゃなかった」


「君からスキルを奪うのが目的だったってわけだね」

 とリクタスが言うと、エルノアは曖昧に頷く。


「んー、まぁスキルもなんだけど、奴らが本当に狙ってたのは……」

 少女は自分の胸にそっと手を当てる。

「私のカラダだったの」


「!」

「魔廷は、魔王の後継者を欲しがってる。だから、私みたいな魔王の血を引いてるコに素質のある子どもを産ませたいみたいなんだ」


「それでね、魔界の武闘大会かなんだかで優勝した男とくっつけられそうになったから、逃げてきたってわけなの」


「……」

 想像以上の事態に、リクタスは戸惑っていた。

――まぁ、何か訳アリなんだろうとは思ってたけどな

 

「あ、ゴメン!ドン引き、だよね?こんな話――」

「そんなことねぇよ!その……大変だったんだね」


――もっと気の利いたこと言えねぇのかよ、俺っ!

 リクタスは自分自身を叱りつけるが、


 エルノアは口元を綻ばせる。

「うぅん、気遣ってくれてありがとう。私は大丈夫よ。結果から言えば私の貞操は無事だったんだし」


「けど、言いにくい、思い出したくないことじゃん?それでも話してくれて……その、ありがとう」


 周りに敵しかいない状況で、男たちに無理やり従わされそうになるなんて、正直トラウマでしかないだろうに。


 少女は驚いたように目を見開いてから、優しい表情になった。

「そう言ってもらえて嬉しい!優しいんだね、キミは――」


 と言いかけてエルノアは、リクタスを見た。

「そういえば、名前まだ聞いてなかったね」


「リクタスだ」

「よろしくね、リクタス」


 エルノアが微笑むと、彼女を乗せた狼がヴォフ!と吠えた。

「この子は、カノン。孤児院にいたときからの友達でね、私が捕まってるときに駆け付けてくれたのよ」


 カノンはリクタスのほうを見ると、ギロっと睨みフンっと鼻を鳴らした。

――ん、もしかして俺、対抗心燃やされてる?


「もう!どっちがすごいとか偉いとかじゃないの。私にはあなたもリクタスも恩人なんだから!」

 と少女は狼をたしなめる。


「エルノアは、カノンの言うことが分かるの?」

「うん。まぁ、カノンが特別なんだと思うけどね。他の動物たちの言葉はぼんやりとしか分からないし」

「それでも十分すごいよ」


 さっき、エルノアが自分の身元を明かそうとしたときにカノンが吠えたのは、彼女を護ろうとしての事だったんだろう。


――それは当然のことだよな

 エルノアたちからすれば、リクタスもまた、見知らぬ人間。

 警戒されてもおかしくない状況で、それでもエルノアは自分を信じて、事情を話してくれた。そのことが嬉しかった。


 そのとき、カノンが上を仰いで鼻をヒクヒクさせると、短く吠えた。

「っ!」

 エルノアが息を呑み、リクタスも身構える。

「どうした?」


「ダズバルが近くにいるかも」

 少女の言葉に、スキルの中から“気配探知”のスキルを複写して発動させる。


 天井の向こう、廃坑上層を探知してみる。

 ほんのわずかだが反応がある。


「……確かに何かいるみたいだな」

 時計のスキルで時間を確かめると、リクタスがこの廃坑に来てから既に5時間以上が経過している。


 ということは、ヴィゴンたちではないだろう。

 奴は最初の言葉通り、すでに少年たちを連れて引き上げているだろうから。

――やっぱり、ダズバルか?


 すると、エルノアは意を決したように唇を結ぶと、

「……私が囮になる」

 と言い出した。


「「!」」

 驚くリクタスとカノン。

「リクタスたちはなんとか隙をついてみて。……最悪でも君たちが逃げられるようにするから」


「そんなマネできるわけねぇだろ!」

「大丈夫。奴らの目的は私に魔王を産ませること。だったら殺すようなことはしないでしょ?でも、リクタスが狙われている理由は、君の中にあるスキル。だとすれば、それを取り出すために切り刻まれるか、それとも実験台にされるもしれない」


「だからって……!」

 リクタスは拳を握りしめた。


 そもそも、下の階層に行くことを選んだのは自分だ。

 エルノアたちを巻き込んでこの道に進んだのなら、その責任はとらなければならない。


――ん、まてよ?

 リクタスはハッとした。


「なぁ、エルノアたちはどうやってこの廃坑に来たんだ?」

「そりゃもちろん、この下の階層から。魔界に通じるダンジョンがあってね。そこと繋がっているのよ。ってまさか――!」


「そのまさかだよ。これからそのダンジョンに行くのさ」

 リクタスは微笑んだ。


「この“喰らい返し”を使えば、もっと強力な魔獣を乗っ取ることもできる。ダズバルにも敵うくらいに強くなれる!」

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