第4話 戦闘スキルの使い方


 意外そうに片眉を上げる魔族の男に、

「あいにくこっちは、奴隷の身分から解放されるメドが立ちそうでな、今更誰かの下に入ろうなんて思わねぇんだ」

 と答える。


「それに、仮にアンタのところで出世したところで、こうしてか弱い女の子をいたぶり追いかけるような仕事が関の山なんだろ?それじゃやりがいもねぇしな」


「……!!」

「バッ、バカ!アンタなんてこと――」


 最大級の侮辱に、男の笑みは消え、少女は焦った声を出す。

 だが、男はすぐに微笑みを取り戻すと、再度問いかける。

「クックックッ……だからといって、ここで死を選ぶのですか?」


「死ぬもんかよ!」

 そう叫ぶと、リクタスは片腕だけをミミック体に変身させた。


「フン、愚かなっ!」

 すかさず魔族の男を乗せたミミックが襲い掛かるが、リクタスは転がっていたつるはしを素早く掴むと、長い腕を振り上げ、


「“三連斬”!」

 瞬時に坑道の地面を斬りつけた。

 

「!」

 バガッ!と地面は割れて、リクタスの足元に大きな穴が開いた。

 おびただしい量の岩石とともに、少年は下の階層へと落ちていく。


「こっちへ!」

 呆気に取られている少女と狼に、リクタスは長い腕を差し出す。

 

 それを見た狼は、再び少女を咥えると、穴へと飛び込む。

 リクタスは全身を変身させると、少女たちを受け止めるような姿勢をとる。

 

 ズダァン!

 自分を下敷きにして少女たちを着地させる。

 狼が少女を乗せて走り出すと、リクタスはミミック体のまま、彼女たちの後に続いた。


「小癪な……追えっ!!」

 魔族の男の声が聞えてリクタスが振り返ると、2体のミミックが追ってくるのが見えた。


「ハッ!」

 後ろ向きに走りながら、再び三連斬を繰り出すが、躱されてしまう。


「ギャッ!」

 ミミックのほうも剣を抜いて、素早く連続の突きを放ってきた。

 3つの円錐形の衝撃波が、束になって襲ってくるのを、ジャンプして避ける。


――このスキルは”三連斬”ならぬ、”三連突き”ってところか。

 威力はほぼ互角だが、2対1では分が悪い。


――だったら……

 リクタスは逃げながら、再び周囲を観察し、天井の一部に水がしみ出している場所を見つけた。

 

 そして、今走っているところは上り坂になっている。

「閃いた!」


 リクタスが”三連斬”を放つと、ミミックは楽々とそれを避けた。

「ギャギャッ!!」

 ミミックは”どこを狙っている”とあざ笑うかのような声を上げるが、リクタスもまた、余裕の笑みを浮かべる。


 壁に斬撃が当たって亀裂ができると、ドッと水があふれ出してきた。

「!!」

 水は1体のミミックの上に降りかかり、激流となってその足もとを掬った。


「ゲギャッ!!」

 バランスを崩したミミックは川になった坂を滑り落ちていく。

 残念ながら倒せてはいないだろうが、十分に足止めにはなったはずだ。


――あと1体!

 リクタスは相手を見据えた。


 そのとき、スキル画面にある“喰らい返し”の文字が再び明滅した。

 スキルが使用可能になった、という合図だ。


――またコイツに喰われれば、乗っ取ることができる!?

 リクタスの脳内をアドレナリンが駆け巡った。 

 

 

 





 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る