第3話 魔族の男
もしこれが本当なら、自分は規格外のステータスだけでなく、念願のスキルも手に入る!
震える手で“Yes”と押そうとしたとき、ズズンと地響きがきた。
ズズン、ズズン!と繰り返し聞こえて、
「落盤か!?」
リクタスは身構えた。
すると、それとは違うタタッタタッと足音が聞えてきた。
――誰が逃げて来たのか?
と思う間もなく、黒い影が坑道の奥から飛び出してきた。
「!」
驚くリクタスの前で、影は身を翻して着地した。
それは体長が人間の倍ほどの黒狼。
その背には誰か一人しがみついていて、ハッと顔を上げた。
――女の子?
年は15,6歳ほどだろうか、海の色を映したような藍色の神の下から覗く肌は白く、長い
耳は妖精族のように長く、耳の上あたりから乳白色の角が前に伸びている。
――魔族、か?
呆気にとられたように少年は少女を見つめる。
少女のほうも、人がいることは予想外だったのか、驚きに目を見開いている。
そのとき、ひと際大きな地響きとともに、坑道の天井が崩れ始める。
「キャ!」
狼がすばやく女の子を下ろすと、その首筋のマントを咥えて壁際へと走る。
「ぐっ!」
リクタスも同じように慌てて壁際に跳んで腹ばいになった。
崩落が収まると、
「まったく、手間をかけさせないで欲しいですねぇ」
土煙の向こうから声が聞えた。
「これはっ!」
「!!」
土煙が晴れた向こうに見えたのは、一体のミミック。
大きさは、リクタスが乗っ取ったものと同程度か。
そしてその上に、誰かが立っていた。
「さぁ、もう逃げ場はありませんよ」
そう言って笑みを浮かべているのは長身の男だった。
青黒い肌に、真っ白なスーツを着てこちらを見下ろしている。
くしゃくしゃの白髪からはごつごつとした角が伸びている。
「!」
リクタスの傍らで息を呑む音が聞こえた。
青ざめた顔で坑道を見つめる少女の視線の先。
そこには、もう一体のミミックが立ち塞がっていた。
反対側も同じように通せんぼされているのを見た少女は、キッと男を睨みつける。
その瞬間、男の眼前3メートルほどのところで、バァンと何かが爆ぜるような音がした。
爆発の瞬間、男を覆うような透明な膜があるのが見えた。
「この私に、アナタの“魔眼”は効かない。何度やってもわかりませんか?」
男は呆れたような声を出したが、その目には愉悦の光が宿っているように見える。
「っ!」
歯噛みする少女の瞳は赤紫色の光を放っている。
「それはそうと……」
余裕の笑みを浮かべた男は、視線を移してリクタスを見た。
その瞳孔が紡錘形に開き、リクタスは身体を探られるような感覚に襲われた。
「!」
「これは……面白いものですね、ヒト族でありながら私の兵を乗っ取るとは」
リクタスの身体をスキャンしたらしい男は、感嘆の声を上げた。
そして、ほんの少し思案顔をした後、
「ヒト族の少年よ。我々の元に来ませんか?」
と言った。
「!」
驚くリクタスに対して、男は両手を広げる。
「どのようにしてミミックの
手を差し伸べてくる男を、リクタスはじっと見つめた。
そのリクタスもまた、少女と狼とが見つめている。
――さて、どうするか。
リクタスは密かに『ミミックが取り込んだ冒険者たちのスキル』の中から、相手のステータスを鑑定するスキルを取得していた。
それで3体のミミックのステータスを見てみる。
奴らのそれぞれの数値は、リクタスと同程度か上回っている状態で、まとめてかかられたら敵う相手でないことは明らかだ。
そして、魔族の男。
こちらはステータスを見ることができない。
先ほど男が、少女の”魔眼”を弾き返したときにみえた透明なバリア。
あれが、鑑定スキルを無効化させているのだろう。
それだけでも、ただ者でないことがよく分かった。
身の安全を考えるなら、男に従うのが一番だ。
だが、リクタスにそんな気はなかった。
まず以って、胡散臭そうだ。
悪いようにはしない、などと言っているが、リクタスを実験動物にしたり解剖したりするかもしれない。
――仮にそうじゃなかったとしても、今のように弱い者をいたぶることに加担させられるかもしれない。
そんなことはしたくない、とリクタスは思った。
強きにこびへつらい、弱い者をいじめるなら、自分を虐げてきたヴィゴンや奴隷の少年たちと同じ穴のムジナになってしまう。
ならば、抗うしかない。
この場から逃れる方法を考えるしかない。
その時、リクタスの視界の端に何かがとまった。
それは、地面にわずかに入った亀裂だった。
サッと視線を落として鑑定すると、かなり脆くなっていることがわかった。
――そうだ、こいつらが上から降ってきたように、こっちも下に逃れることができる
はず!
あとはどう攻撃するか。
幸い、スキルの中から手段は瞬時に見つかった。
先ほど見ていた“三連斬”。
スキルの攻撃力と地面の”防御力”を見て、「いける」と判断したリクタスは、フッと笑うと、再び男を見据えて、
「断る!」
と言い切った。
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