第2話 狩りの依頼受託
流石に奴も理解しているのか、無抵抗のままだ。恐怖心はないみたいだが、焦りのような何かがあるのは分かる。
「強引にやったことに関しては申し訳ない。余裕があったら依頼を出してたよ。君たちの世界に合わせ、手続きをする予定だった。けど神様が早くやれやれ言うし、脅してくるしでさ。やるしかなかった。うん。これはただの言い訳にしか過ぎないね」
徐々に声の強さが失っていった。弱々しい雰囲気しか出ていない。まるで役所の御勤め人ではないか。無茶な上の要求に無理やりやろうとする有様、まさしく社畜というものだ。神様は空想上のものだが、私達の想像通りのものなら……ここまで気の毒だと言えるのは滅多にないだろう。
ここでひとつ大事なことをグロリーアは言った。依頼。私達が狩人であることを知った上での発言だ。それはカエウダーラも分かっていた。槍を畳む行為をし始めているから間違いない。
「依頼と言ったね」
「ああ。依頼要請と……あとは私が掴んだ情報の資料だ」
私達がよく使うドルノ文字で書かれていた。合計8体の討伐依頼。神話に関係しているのかどうかが怪しいらしい。特徴も書かれているが、書物の記述でしか分からないため、実際は不明だろう。そもそも本当に獣達は世界を滅ぼすのだろうか。周辺に害を与え、下手したら国家滅亡という事態になる時がある。大戦争パクスラグナログ後はそうだ。ここが別世界だと言うのなら、滅多にないはずだ。
「すまないが……国家を滅ぼす程度だろ。世界を滅ぼすとは思えないのだが」
グロリーアは言いづらそうな顔になる。
「見てしまったんだ。世界が滅ぶ瞬間をね」
「所詮は夢ですわよね」
本当にカエウダーラは容赦ない。そして平然と答えるグロリーアの精神はどうなっている。
「いや。証拠はきちんとある。彼らが眠った遺跡に膨大な……君たちだとそうだな。エネルギー反応。それがあったんだ。ニンゲンやエルフだと不利なところが多い。どうするという話になってね。神が告げてきたのさ。彼女が言うには運良く探し当てたらしい。空間の歪みでどこかに行ってしまった神獣族とアプカル族。かつてこの世界にいた、神々の眷属である彼らの子孫ならやってくれるとね」
祖先がかつていた。神々の眷属。そもそも神なんていないと思うが、相当なものだったのだろう。
「そんな感じで神様は話し合って、最優秀魔術師の僕に頼って来たというわけさ。難しい構築なんて専門じゃないのにさ。ふざけるなって感じだよ」
疲労感満載である。
「お気の毒、完全に社畜ですわね」
専門外なのにやらされる魔術師。神々に最も翻弄されているのは彼だろう。主犯ではあるが、攻める気が失せてしまう。カエウダーラみたいに哀れんでしまう。
「報酬は用意させてもらうし、サポートもやるつもりさ。終わった時帰せる手立ても整えている」
「それは助かる」
何も知らない土地に放り出されたら、私達は何も出来ない。言語が通じないとなると、かなり厳しい狩りになることを予想出来ていたからだ。それに元の世界に帰してくれるのは非常にありがたかった。
「それでは早速案内をするよ。動きやすくなるにも段階を踏む必要があるからね。早ければ早い方がいい。付いて来て」
やはり戸籍がないとやりづらいのか。そりゃそうだろうなと思いながら、グロリーアに付いて行く。小道を歩き、近くの村に到着する。役所に行くのだと思っていたが、明らかに違うと看板がある大きい2階建てのログハウスから感じ取った。
「明らかに役所ではないだろ」
「正解だ。ここは冒険者ギルド。昔は未知の土地と遺跡を探索する仕事だったが、ほとんど形骸化しちゃってね。今は何でも屋みたいになってるんだ。真の冒険者と呼べる者はそうそういないだろう」
グロリーアが押して開く。屈強な男達が斧や大剣などを背負っている。視線がやたらとこちらに向いている。私ではない。予想はしていたが、やはりカエウダーラだった。水着という露出度の高い服装に、あの胸を持ち、おっとり系の美人タイプなのだ。世界が異なろうと、男の注目をかっさらっていった。
「よし。二人とも試験を受けて」
事務職っぽい人と話し終わったグロリーアが唐突に変なことを言いだした。ペーパー試験だったら。不安しかない。
「試験」
「ああ。冒険者になるには一定の強さが求められる」
強さ?
「実戦形式で行われる。石で封印した魔獣を倒せば合格というわけだ。簡単だろ」
実にシンプルだ。そうだ。どれだけ知識があっても、倒せる技量がなかったら意味がなさない。世界が異なる、私達祖先の故郷の獣はどういったものなのだろうか。
「会場を案内するから付いて来て、だそうだよ」
事務職っぽい人が何か言った。すぐ翻訳できてしまうグロリーアの頭はどうなっている。とんでもない物から作られたとか、人工知能搭載とか、そういう解説を聞いただけで納得しそうだ。
「何か言いたげだね」
「何でもない」
これは後で聞いておこう。今は試験優先だ。ギルドの建物から出た。山に近いところだ。正直着替えた方が良いのではと思わなくもない。住人らしき者からの視線が痛い。
「ふたりとも戦う準備は出来てるかい」
途中でグロリーアから聞かれた。当たり前だ。手元に武器があるし、メンテナンスを怠っていない。いつでも戦える。
「カエウダーラ、行ける?」
「もちろん。いけますわよ」
相棒も同じようなものだ。ここで事務職の人の足が止まった。三階建てと同じぐらいの大きさだ。土で出来たブロックを積み立てた塔みたいな感じか。不思議な仕組みだと思った。手で触れると勝手にブロックが動く。意志を持っているみたいだ。いや。プログラムを作っているからこそ、なせることなのだろう。
「思ったよりも広いですわね」
確かにそうだ。カエウダーラが言った通り、広々としている。空間の広さと外から予想した広さが異なる。岩がいくつもあり、隠れられるところがある感じか。
「基本ひとりで受ける形だよ。手段は問わない。まずは誰が戦う」
だろうなと思った。カエウダーラが前に進んだ。瞬時に槍を組み立てて、両手で構える。いつでも問題ないと判断したのか、事務職の人は真ん中に透明の石をそっと置いた。
「あれが封印の石だよ。生け捕りにした魔獣を封じる」
事務職の人が何か言った。
「え」
何を言ったのか不明だが、文句ありまくりの表情で承諾しているように見える。
「カエウダーラ、そろそろ始めるからね」
めんどくさいという表情をしながら、グロリーアはぶつぶつと言った。パキパキと割れる音が耳に届く。本当に獣が封じられていたのか、獣の姿が現す。灰色の狼に近いが、獰猛な部分が強調されている。唸った後、襲い掛かる。
「これぐらい突破しないとダメってことですわね。ですが……修羅場なんて潜っておりましてよ?」
槍で素早く突く。目を潰した。狼は噛みつこうとしているが、片目が潰れている今、本来の力なんて出せないだろう。その隙を逃すほど、カエウダーラは甘くない。もう片方の太ももにホルスターがある。銃だ。私よりも小さい、手のひらサイズの銃。雪の飾りを付けているスカディスノウ(SSとも呼ばれている)12だったはずだ。その安全装置を外し、トリガーを引いた。
「瞬殺だねぇ」
一瞬でケリが付いた。予想していたことなので大した驚きはない。グロリーアも驚く様子が見られない。事務職の人は流石に驚いているようで、ほっぺたを叩いている。グロリーアが何か言っている。そして悪化している気がしなくもない。余計に戸惑わせてどうする。
「お疲れ様」
疲れてはいないと思うが、声掛けは大事だ。カエウダーラはほんの少しだけ不満気である。
「もう少し歯ごたえがあるものでしたら良かったのですが」
「しょうがないと思うよ。それじゃ。私も行ってくる」
私もカエウダーラと同じ種類の狼を倒し、私達は冒険者ギルドに登録することが出来た。身分証明書扱いのカードを渡された。グロリーアが言うには「もう少しランクを上げることができれば、依頼達成しやすくなる」とのことだ。特権というものがあるのかもしれない。この後の方針は話し合って決めておこう。
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