第3話 術師の意味の違い
グロリーアの自宅に戻る。すぐに計画を立てていく。いつグロリーアが言う獣が目覚めるのか不明だ。それ次第で変わって来る。いや。最悪ケースを常に想定しておくべきかもしれない。
「すまないが通信端末を借りてもいいかい?」
当のグロリーアは話し合いに不参加だ。そんなわけでカエウダーラと話し合いだ。
「まずいつ目覚めるか。最悪な場合だと三十日後のようね。複数同時の可能性が低いだけマシか。あったとしても2体同時らしいし」
「ええ。とりあえず……一刻も早く、いつでも動けるようにしておくべきだと思いますわ」
私達はあくまでも狩るためにこの世界にやって来た。準備を出来るだけ終わらせておきたい。
「同感よ」
何故か冒険者ギルドには軍隊のように階級があった。ただ実力だけではなく、信頼できるかの証という役割らしい。ヤバイ奴を仕事目的で外の国に行かせない足枷の役目もあるだろう。ブロンド、シルバー、ゴールドの三つだけだ。シルバーの証を取れば、仕事である限り、スムーズに外の国へ向かうことが出来る。
「そうなると実績を上げる必要がありますわね。難易度が高くて、かつ貢献できるようなものが理想的ですわね」
難易度が高いはただカエウダーラが戦いたいだけだろう。そう都合の良いものがあるとは思えないが。
「その顔は何ですの」
表に出ていたみたいだ。しまった。
「まあ仕事は後で明日チェックするとして。道具はどうする。運良く狙撃銃と弾、メンテナンスの道具もあるけど、壊れるリスクも頭に入れておきたい」
「そうですわね。腕の良いものでないといけませんわね」
職人なんて知らない。そもそも技術がどこまであるのか不透明で、一般的な技量なんて知らない。なるべく早めに御用達のところを探す必要があるのだが、吟味する時間なんてあるのだろうか。カエウダーラの人脈が使えないとなると、いつも以上に苦労するはずだ。そういえばとここで思い出す。
「グロリーア、良い腕を持つ職人を知ってる?」
「いきなりなんだい?」
視線をグロリーアに移す。薄茶色の紙と通信端末がテーブルに置かれている。紙に何か書いているようだが、変な記号や文字ばかりで解読不可能だ。術者の構築コードのように書かれている。本職ではないと言っていたが、腕だけならほぼ互角なのではないか。作業中に話しかけられ、戸惑うような節を見せている。
「職人かい? うーん。そうだな。飛び道具は流石に厳しいけど、槍とか刃物なら修復可能だと思うよ。明日に案内しよう。知り合いにいるからね。そういうの。ただ」
グロリーアはじっと私達を見る。顔より下……服装を見ている。南国のテラスでのんびりしていたということもあってか、水着とワンピースを合わせた格好をしていた。相応しくないと言いたいのだろう。
「ええ。服を買えとおっしゃるのね。いやらしい目で見られてたから、分かりますわ」
カエウダーラが毒を吐くように言った。気にしていたみたいだ。
「大体なんでそういう格好なのさ。気になってたけど」
現在いるところに海らしきものが見当たらない。そういったところなのだろう。村人が困惑気味だったのも理解出来る。
「相応しいコーデというものがございましょう?」
「それ答えになってない気が。うーん。要するに海側にいたってことかい」
察しが良かった。こっちが申し訳ないぐらいに。
「そういうこと。せっかくの休みだったのにこれだからね」
どう責任を取るとは言わない。彼だって上司の要望に応えただけだ。
「それは……本当にごめん」
普通に謝ってきた。
「いいよ。別に。急な依頼なんて腐る程あるし」
本当のことだ。大物を狩った経歴があるからか、たまに休みの時でも依頼が来たことがある。これぐらい慣れている。別世界に行くことは初めてのケースだが。
「とりあえず買い物と仕事の確認だね。明日は」
「ですわね」
依頼達成するための方針とやるべきことが決まった。周辺が暗くなっている中、行動をとることなんて出来ないだろう。今日はここまでだ。
「ところでグロリーア、あなたは先程から何をしてらっしゃるのです?」
テーブルの上に白い物と宝石みたいなもの、キラキラとした毛数本があった。
「君たちで言う翻訳機器を作ってる途中さ。だいぶ原理が異なるから驚くだろうけどね」
どういうことだろう。そう思いながら、グロリーアの手元を見る。紙があった。そこには丸い円の中に頭が痛くなりそうな文字列が書かれていた。グロリーアが何か言った。流石に声の大きさが普通だったので、聞き取ることが出来た。だがこの世の言葉ではない不思議なものだった。
「は?」
光ったと思ったら、イヤホンマイクに似た何かが現れた。あまり詳しくない分野とはいえ、あれだけの材料で出来るとは思えない。そもそも術者は文字の列……コードの書き込みを行い、マナエネルギーを通して、現象を起こさせる者のはずだ。科学現象もある程度把握している前提でコードを考える。初等教育を受けている者なら知っていることだ。しかしグロリーアは何かが違う。
「あなた本当に術者ですの? 今やったことは物質変換そのもの、いえ元素レベルの変換が正しいかもしれませんわね。ああいったものは本来そう簡単に出来ません」
流石はカエウダーラ、何が起きたかを理解出来ていた。
「あーそういうことか。なんか変だと思ったら」
そしてグロリーアは勝手に納得していた。
「どういうこと」
正直よく分からないので質問した。どこまで教えてくれるか不明だが、やらないよりマシだろう。
「色々と原理が違うんだろう。僕達の世界、魔法使いとも言うし、魔術師と呼ぶ奴もいるんだけどね。ある程度のステップさえ踏んでいれば、発動出来る仕組みだ。魔力とセンスが問われる世界とも言えるかな」
あまりにも違っていた。魔法という考えはあくまでも空想上のものでしかない。小さい子供達のおとぎ話の世界とも言えるか。魔法は奇跡で出来たものだ。術……コードの書き込みは知識とあらゆる技術で出来ているから違うものだ。誰かがそう言っていたことを思い出す。
「ま。今のはその中でもだいぶ特殊な奴だけどね。錬金術。カエウダーラが指摘した通りのことを行うものだ。昔の魔法で難易度が高いから、扱える奴なんて滅多にいないのは事実だ」
奇跡の代行者。その中でもかなり特殊なタイプなのかもしれない。
「本職は古代の研究だとおっしゃってましたけど?」
「痛いとこ突くね!?」
相棒は本当に痛いとこばかりを突く。私でもそこまでやらない。
「いっそのことニザヴェリル社に来ません? 結構良い報酬だと思いますわよ? それに無茶な要求なんてしないでしょうし」
「あー確かにそうかも」
ケースバイケースだが。とりあえず取るべき行動が決まったので、後は夕食を取って寝た。グロリーアが作ってくれたのだが……もう少し自分の料理の腕を上げるべきかと感じてしまった。
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