第21話 回復(リハビリ)20 七草がゆ
朝、起きたところの
胃薬を探して飲む。これで少しましになったが、あまり無理はさせられない。この無職の状態で、本格的に体調を崩すことは避けたかった。
午前中のスーパーにはあまり人がいなかった。そのかわり、見慣れない特設売場が大きなのぼりで存在を主張している。
七草の説明がその横に書いてあった。言われるまでもなく知っていると思っていたが、指を折って数えてみるとすぐには浮かんでこないものもある。
「すずな、すずしろ、ほとけのざ……」
つぶやきながら、薬子は七草に手を伸ばした。
メインで置かれているのは本物の七草、その横の見落としそうな位置にフリーズドライの七草が並べてある。
昔の薬子なら、迷わずフリーズドライのパックを手にとっていただろう。軽くてかさばらないし日持ちもする、そしてなにより電子レンジで温めた粥に入れるだけで完成という手軽さがある。
薬子は再度売り場を見つめた。今年は去年までとは違う。時間はたっぷりある。雑な性格でも、時間さえあればなんとかなるだろう。
薬子は軽く鼻を鳴らす。
「粥は出来合いだから、さすがに失敗はしないでしょう」
やらかしたら、見なかったことにして粥だけ食べよう。そう心の中で決めて、薬子は生の七草を手に取った。
帰宅するとさっそく料理にとりかかる。
先に七草を茹でて水気をきっておく。多すぎたかと思ったが、茹でるとかなりかさが減った。野草に近かった七草は姿を変え、料理でございますという顔をしてざるの中に収まっている。
それを細かく刻んでいると、鍋から温かい湯気があがる。粥がふつふつと煮えてきて、ぷくぷくと表面に泡ができてきた。
一番いいと思えるタイミングで、横に置いてあった七草を投入する。もう火が通っているから、少し煮込めば完成だ。
急いでそれを椀に移し、塩をふって味付けをする。一番シンプルな粥を前に、薬子は両手を合わせた。
「いただきます」
口に含むなり、眉尻が下がる。暴飲暴食の後の粥は、全身にしみるようだ。柔らかい米粒とくたっとした青菜が絡み合って、喉を落ちていく。わずかな塩味が心地よく、薬子はするすると丼の半分ほどを平らげた。本当に消えるように食べてしまえるから不思議だ。
一旦卓に丼を置く。軽く汗が出ていた。それをぬぐって、続きに取り掛かる。さらに十分ほどかけて平らげ、汗で湿った下着を取り替えた。
薬子は布団の上に腕を投げ出した。無言で長く息を吐き、胃が粥を消化しようとしている動きを感じる。七草の詳しい効能は知らないが、確かにお腹の中で動いている感じがあった。
「さて、明日からまたダイエット頑張りますか……」
薬子は電気を消し、頭まで布団をすっぽりとかぶった。
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