第18話 回復(リハビリ)17 古書買い取り
しばらく風邪で倒れていたが、三日経つとようやく
「大掃除の季節ですなー」
普段からちゃんと掃除をしていれば、この季節に腕まくりすることもない。去年までの薬子なら、真っ黒になった排水溝とか、びっしり埃がたまった箪笥の下とか、見たくないものを色々見る羽目になっていたが、今年はまだましな方。雑巾掃除もやってみるものだ。
おおかた掃除の残りを終えて、軽く汗をかいたので着替える。
「余裕ついでに、古い物も捨てちゃおうかな」
クローゼットや玄関通路のところに、読まない本や着ない服が積み重なっている。薬子は腰を据えて、それを選別し始めた。
今着るのが恥ずかしい服は結構ぽんぽんと捨てられたのだが、問題は本だった。まだまだ読めるし、それに何より重くてゴミ袋が破れてしまう。何重かにすればいけるかもしれないが、そもそも本をそのまま出すのは許されるのだろうか。
悩みながら手だけ動かしていると、みるみる雑誌の山が出来上がった。これはきっちりと縛って、燃えるゴミの日に出すことにする。
「よし、これでちょっとスペースがあいた」
薬子は雑誌を玄関に運び、クローゼットのより奥の方をかき回し始めた。
「あ、これもあったか……」
薬子は眉をひそめた。
大量の漫画本が出てきた。好きで手垢がついているものもあるが、ほとんど新品に近いものもある。流行りだからちょっと買ってみたが、表現がきつすぎて結局あまり好きになれなかった漫画だ。これはますます、すぐ捨ててしまうのは勿体ないブツだ。
「そういえば、昔売りに行ったことがあったなあ。重かった……」
近くの古本屋チェーンで買い取ってはくれたのだが、五十冊近く持っていって、千円弱が戻ってきただけだった。お金を軽く見ているわけではないが、二束三文とはこのことだ。
「……でも今は、千円でもあればありがたいよねえ……」
薬子もいろいろ慣れてきて、千円で出来ることがたくさん思いつくようになった。簡単なこと、ちょっと難易度が高いこと……やってみたいことが色々ある。
薬子はさっそく、買い取りについて調べてみた。
今は段ボールに詰めて宅配業者に渡せば、買い取り業者のところまで送ってくれるそうだ。すぐに査定額を知ることはできないが、だいたい一~二週間で結果がわかるという。さすがネット社会。
「……これくらいキレイなものなら、売れるかな?」
薬子はあまり好きではなかったが、流行っている漫画だった。欲しいという人もいるかもしれない。思い切って申し込んでみることにした。
まず段ボールが先に届き、それに本を詰めて再度宅配業者に渡す。薬子はあまり期待しないで、結果を待った。どんなに悪い結果になっても本さえ持っていってもらえれば、薬子の方は目的を達成しているからいいのだ。
それからしばらく、薬子は買い取りのことを忘れていた。他に掃除する場所は山のようにあったのだ。
「さて、どうなったかな」
送ってから一週間後。薬子はあまり期待せず、査定金額ののったページを開いた。査定金額──しめて一万二千と五十円。
「嘘」
薬子は目を丸くした。
放置していた漫画が、まさかこんな金額で売れるとは思わなかった。思いがけず、ボーナスをもらったような気分である。薬子は小さくガッツポーズし、もちろん了承した。
キレイになった部屋は気持ちいいし、間もなくお金も入ってくる。いい気分で年末を迎えられそうだ、と薬子は微笑んだ。
「……いい気になって使っちゃう前に、備蓄はしとかないといけないけど」
この前のようなことがまた起こるかもしれない。いざという時慌てないように、薬子は買うべき食料をリストアップし始めた。
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