第35話 合流! ロマンスをお求めのあなたへ『ユニーク』な提案!?

「……フェディエンカが、そんなことを……」


「みんな、助けるために力を貸してくれている。だからもうアセナ一人じゃない。帰る場所、行く場所はあるんだ」


 うん、うん、ともう一度ぽろぽろと涙を流す。彼女の顔に絶望はない――もう、大丈夫だな。


 日の傾きからして10時半と言ったところか。


 予定通りなら、かく乱を終えた三人が向かい始めているはず。


「急ごう! みんなが待っている」


 俺らは合流地点である城壁へと急行した。


 城壁まであと半分って行ったことで、大通りを疾走する三人の姿を見た。


「おーい、みんな!」


「アンシェル!」「エルやん!」「エルさん!」


 一人一人呼び方が違ってハモられるとなに言われてんだかわからねぇな。


 屋根から降りて並んだ俺たちをみんなが歓迎してくれる。


「嬢ちゃんも無事で良かったぜ」


「ごめんね! あーしゃん! 助けるのがおくれちゃって!」


「みんな心配してくれていたんだよ。アセナのこと」


「ナキアさん……シャルさん……」


 腕の中でアセナはみんなの思いをかみしめるように胸に手をあてうずくまる。


「アセナさん……ごめんなさい」


 沈黙を保っていたレアさんが不安そうなお面持ちで話を切り出してくる。


「殿下……」


「宰相の暴走を止められず、あなた達みたいな存在を作ってしまい、全ての責任はわたくし達皇族にあります」


「……やめて下さい。そんな――」


「いえ、このままではわたくしの気がすみませんもの、ですが今は逃げるのが先決」


 そう、最優先すべきなのはアセナを連れて脱出すること。


 さっきは城壁を抜ければ勝ちと言ったけど、正直軍は国境まで追いかけてくると思う。


 そうなれば、しょせん人の脚、いずれはクローディアスに追い付かれる。その時は――。


「落ち着いたらまたちゃんとお話ししましょう」


「そんときはお菓子もって、パジャマ来て、一晩中語り明かそ!」


 もちろん女の子だけで、とそうシャルが目配せを送る。


「はい!」


「にしてもさぁ……」


 むふっ、っていう気色の悪いシャルの笑いで俺を流し見てくる。なんだよ。


「――むふふ、おめでとう、あーしゃん」


「え? おめでとう? ごめんなさい、ちょっと良く分からないんだけど?」


「『俺がもらう発言』」


「な!?」「え!?」


「エルやんにもらわれちゃったんでしょ?」


 いや、まてまて――たしかにそんなこと口走っていたけど!


「あ、あれは【霊象予報士】としての私を必要としている意味で……」


「そぉ? あの時の迫真に迫った「俺が貰う!」はそんな風には聞こえなかったけどなぁ?」


 本人に聞いてみれば? なんていうシャルの余計な発言で、みんなの視線が一気に俺へと集まる。やめろやめろ、そんな目で見るな!


「そうなの?」


「いやぁ……まぁ……そういう思いも……なくは……なかったかな……?」


 気まずっ! やっぱキモかったか俺? 好きでもない相手に告白されるのは、ある種女子の間じゃいやがらせだって聞くし――。


「そ、そっか……そうなんだ……」


 え? なにこの反応?


 恥ずかしそうにうつむいて、これって脈アリなのか? 期待していいのか?


 いや、まて、早まるな俺、まだアセナの気持ちをちゃんと聞いていねぇじゃねぇか。


 無事帰れたら、今度こそちゃんと告白して、それから答えを聞こう。


 さっき、好きだって伝えたけど、あれは友達として好きという意味でとらえられちまったように思えるし。


「なるほど、つまり二人は、二種族の懸け橋的な? 関係になっていただくということで」


「それいいね、レアさん!」


 おいおい、ちょっとまって当事者を置いて勝手に話を進めんな。


「ばーか、キサマらロマンス小説の読みすぎだ。そう簡単じゃねぇだろ? 男女の関係も、国の関係も、種族の関係も」


 ふぅ~……助け船をナキアさんが出してくれて命拾いした。


 てっきり悪乗りしてくると思っていたけど、意外と現実見ているんだな。


 止めに入ってくれなかったら、ことが終わった後のパーティーで、こいつらの酒のつまみになった挙句、危うく公認カップルにされていたかもしれない。


 いつも戦いのとき以外、ちゃらんぽらんなのに正直見直した。


「ナキにぃってばロマンがな~い」


「そうですよ。これは将来的に両国の友好の証になっていく出来事かもしれませんよ」


 やめろやめろ! はやし立てんな!


「ロマンだけで未来が語れるか……でも、待てよ、そっか……」


 なんだなんだ? 雲行きが怪しくなってきたぞ。その不敵な笑みで何を考えている?


「現実的に考えて亡命するにしても、家族がいたほうが手続き楽だから、それもアリっちゃアリだな」


「「な、ナキアさん!?」」


 二人そろって彼の頭を疑ったよ。しかも息ぴったり。


 よこした助け船が飛んだドロ船だったとは夢にも思わねぇ。


「割と多いみてぇだぞ? ビザを取るのを理由に一緒になるの。手続きが楽だからって」


「それがイマドキみたいに言うんじゃねぇよ!」


 もっと夢見させろよ!


 そんなきっかけが当たり前みたいにされたらたまったもんじゃねぇよ。

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