第27話 この『ピンチ』に駆けつけられるは、一部の傑物だけです
背後の鉄扉が悲鳴をあげ、こじ開けられるや、見覚えのある奴らがなだれ込んできた。
「ナキアさん! シャル!」
流石フーリガンバー、突入ツールの名は伊達じゃない。後に残るのはひしゃげたクズ鉄だけ。
「待たせたな、アンシェル!」
「ごめんねぇエルやん。ちょっと道込んでてさ!」
ところどころかすり傷が見えるけど、相変わらず元気そうで安心した。
もちろん、その後にはレアさんも。
「クローディアス宰相、フェディエンカ、あなたたちを止めに来ました」
「これはこれは殿下。いかがされました? こんな場所にわざわざご足労いただくなんて……それに何故、かような者と一緒にいるのですか?」
「殿下!? 殿下だって!?」
俺を無視して言葉が交わされる。
殿下って言うことは、つまりお姫様ってことだよな?
良いところのお嬢様だとは思っていたけど、まさかそこまで身分が高かったなんて。
「……ごめんなさい。隠していて、わたくしの本名は《レアセレーネ=フォン=コーデリア》、現王の孫にあたります」
凛々しい顔つきで、レアさんはすっと俺らの前に出る。
「宰相。あなたが秘密裏に作った霊象兵器【天雷の矢】について調べさせてもらいました」
「ほう、ぜひお聞かせ願おう」
動揺一つ見せないクローディアス、それに対しあからさまにレアさんの表情は険しくなった。
「あれは周囲の霊象気を砲弾として打ち出す代物です、それにより【霊象】に多大な乱れを引き起こすことが最近の観測データから判明しました」
「じゃ、じゃあ、最近【霊象獣】が頻繁に出現しているのって……」
当然出たシャルの疑問、遺憾な面持ちでレアさんは首を縦に振る。
内心俺も驚いていたものの、それだけで話は終わらない。更に驚愕な事実が続く。
「現在、実戦投入可能なものは20機。それを同時に起動すれば、【霊象】は激変します。この資料によれば、あなたは事前にそれを知っていましたよね」
「それがどうした?」
その返答は、俺たちを凍り付かせるのに充分な冷たさを持っていた。
悪びれる様子も、まして開き直る様子すら一つもない。
その目はまるでそれが正しいと信じて疑わない意志すら宿っているかに見えた。
「そんな粗末なことなどどうでもよいのだ!」
良心の呵責など微塵もないその言葉に俺ら全員息をのんだ。
この光景を見ろ! とでもいうように大きく手を広げクローディアスは語った。
「我が帝国は国土こそあれ! はるか南まで続く大地のほとんどは作物の育たぬ凍原と雪で覆われている!」
ぎゅっと拳を握りしめ、一瞬、浅くため息をつくも、再び熱弁をふるってくる。
「そんなやせた土地で臣民はわずかな農地と漁業で食いつなぎ、明日の希望も見いだせない世界で暮らしている!」
「だから帝国は日夜貿易交渉を――」
「敗北を理由に足元を見られることのどこが交渉か!?」
歯をむき出しにクローディアスがレアさんの言葉をさえぎる。
「今や産業資源である【霊象獣】が現れてくれればまだ良い! 闇と水と風の霊象の強い環境では奴らは著しくにぶってしまう!」
故に産業で後れを取り、実に嘆かわしいと、歯を食いしばりながら話す。
「それはある意味、我らが神、嵐の神と冥界の女神の恩恵と言える、だが――今すぐにでも臣民にはジーファニアの肥沃な土壌が必要なのだ」
「……そのためにあなたはあの兵器を――」
「然り! この者の処断が終われば、すぐにでも侵攻を開始する!」
「そんな――あなたが権力を掌握したのは全て……」
「ええ、そうです。現王であるあなたの祖父君とて私を止めることはもはやできませぬ」
「――なら力ずくで止めるまでだ」
震脚を踏み鳴らし、話の腰を折ってやる。
難しいことは分からない。正直話半分だった。なぜならそれがアセナを殺す理由とどう繋がるのか全く分からなかったからだ。
「よく言った。アンシェル」
肩に手をかけたナキアさんがほほ笑みかけてくる。
「……悪りぃな。決断させちまって、カサンドラさんの時もだ。お前ばかりに負担をかける。先輩として兄弟子としてほんと情けねぇ」
誤解だ。そんな風に悪く思ったこと一度もねぇよ。
「ただ、潰れた面目のままはかっこ悪いんでな。その決意、オレ様も一緒に背負うぜ」
「……ナキアさん」
今度は反対の肩にシャルがひじを乗せてきた。
「久しぶりにウチも本気でムカついた。カサンドラさんのケガも大体こいつらのせいなんだね」
多少の思い違いはあっても、二人も一緒に立ち向かってくれた。なんて心強い。
「そうですね。依頼主がいつまでもそのままというわけにもいきませんね。覚悟を決めました!」
わたくしも戦います! と肩に下げていた銀色のライフルをレアさんは構えた。
「せっかくだ。お見せしよう――私が開発した兵器は何も【天雷の矢】だけではないことを」
はめていた右手袋を投げ捨てる。
あらわになったその手は硬質に帯び、全体に滑らかな曲線。
指先は獣のように鋭く、人間のものじゃなかった。
そいつを俺は見た覚えがある。それつい数時間前――。
「な、そ、それは!?」
レアさんも俺と同じ結論に至ったようで、言葉を失っていた。
「まさか、移植しやがったのか?」
「なるほど……不正入国といい、資料といい、研究所の侵入といい、こそこそ嗅ぎまわるのがよほど好きと見える」
徐に右手を掲げると、みるみる暗雲が空に立ち込めていく。
「そんな国家に疫病をばらまくドブネズミは駆除しなくてはな!」
次の瞬間、飛来する閃光が桟橋を打ち砕いた。
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