第17話 『約束』という名のデート
青白い閃光が視界を覆いつくす、放たれた熱線が肉壁を突き破り、人間の子供大はある【霊象石】を貫く。
辛うじて俺が覚えていたのは大体そこまで、なんせ計器から火の手が上がって、アセナをかばったから。
ただ爆発の瞬間、奇妙なものを見たんだ。そいつは砕け散る【霊象石】の中にあった何かで、その形を一言で表すなら――そう、人間の胎児に見えたんだ。
次に俺が意識を取り戻したのは軍用車の車内、運ばれているうちに、なんか体が揺れている? と感じた時だった。
「あ、目が覚めた?」
俺を助手席いたシャルがニチャァっとした笑みで声をかけてきた。もうちょっとマシな意識確認はできないのか? って思ったけど反論する気力がない。
帰りの山中のデコボコ道。新緑が生い茂り、木漏れ日が気持ちいい。
「どう気分は?」
「最悪、その気持ち悪い笑みさえなければ」
「なら大丈夫だね、でも本当にその状態が最悪?」
ふと上を指してきて、釣られるように見上げるとうたた寝をするアセナの顔。
ああ、そういうことか――クソ、せっかくの膝枕なのに何にも感じねぇ、なんでだ?
「背中がなかなかの火傷でさ、鎮痛剤をうったからしばらく感覚ないと思うよ?」
残念だったね、ニシシと悪戯っぽい笑みを向けられた。
そういうことかよ。ようやくニタニタ笑うシャルの謎が解けた。
「ま、なんにしてもだ、アンシェル、よく頑張ったな」
「いや、俺は何も、アセナがいなかったら脱出できなかった……」
あのランドワームの中で俺ができたことと言えば、【天雷の矢】の照準を合わせることだけだった。
――強くなりてぇ。これじゃみんなのお荷物じゃねぇか。
「ま、詳しい話は帰ってからにすっか。とりま、凱旋だ」
ヒマワリ畑が覆うなだらかな丘の向こうに白い町【マルグレリア】が見えた。
それから【完成体】襲撃事変から1週間が経った。
「――うん、そう、今度の【
「【神凪節】ってことは秋生まれだ。じゃあ私たちやっぱり同い年なんだ」
「え? ということは? アセナも?」
「えっと、私はちょうど反対の【
マルグレリア名物【タコヤキ】をほお張りながら、アセナは俺の隣を歩いている。
なにを隠そう今日は約束のデートの日だ。
この日のために完璧なプランを用意したんだけど、しょっぱなからしくじった。
もうちょい調べるべきだった……マジ反省。
何があったつーと人気のスイーツ店がさ、定休日だったんだよ。
だからこうして彼女の大好物である貢ぎ物を献上したってわけ。
ちなみにさっきの話は暦のこと。
【霊象】には1年を通して【霊象獣】の発生が弱まる【神凪節】と、逆に大量発生する【百鬼節】があって、そこを節切に年越しを迎えるって話。
男性と女性、赤い血と青い血、【神凪節】と【百鬼節】――。
ここまで正反対だと逆に妙な縁を感じるよな?
ともかくだ。しょうがないので予定を前倒しして先に公園内の散策を始めたよ。
群生する青飴藤のほのかに甘い香りが漂ってきて、もう夏って感じだ。
「わわぁっ!? みんなちょっと待って! あははっ!! くすぐったいよぅ!」
噴水前でアセナは鳩へ餌をあげる。
ベンチで俺は光に照らされ煌めく水沫の中で弾けるように笑う彼女を眺めていた。
【完成体】襲撃の一件以来、自分の無力さを俺は痛感していた。
このままじゃアセナを守るどころか、足手まといだ。
本当ならこの時間も特訓に充てるべきなのかもしれない。そうすると彼女との時間も取れなくなる。
「どうしたの? 元気ないぞぉ? もしかして疲れちゃった?」
「そ、そんなことないよ?」
一息つこうとアセナはベンチに座る。
「あ! なるほど~、さては仕事のことを考えてるなぁ?」
う、すごい。半分正解している。
「いや、ほんとそんなこと無いって、ただちょっとこのままで良いのかなって考えていただけ……ごめん、忘れてくれ」
デート中に何やってんだ。ちゃんと彼女を見ろ! 俺のアホ!
これじゃ仕事一辺倒で家庭をかえりみない旦那……ってバカか、先走りすぎだっての!
はぁ……きっと彼女も呆れたよな、なんて思っていたら。
「ねぇエルくん?」ふと神妙な顔でアセナが問いかけてきた。「私が人のウソを読み取ることができるっていったらどうする?」
外れ値もいいところ、予想外の話が振られて俺は困惑した。
でも彼女がウソをついているようにも見えない。
「えっと……読心術の類い?」
底浅な俺の返答は「そういうのならよかったんだけどね」と物悲しく笑殺された。
「残念ながらホンモノ」淡々と彼女は告げる。「こうして触れるとね、相手がウソをついているかわかるんだ」
徐に手に触れるとにぎにぎしてくる。なんかハズイし、くすぐったい。
なんかわかりやすい問題はないかな? と彼女はあごに指をあて考えこんでいたら、俺の手の甲に水滴が落ちる。
見上げると、さっきまで晴れていた空に雲が立ち込め、ぽつりぽつりと雨が降り出す。
「うそ、雨?」
「んいや、多分スコールだ。とりあえずあそこまで走ろう!」
目に映った唯一雨宿りできる場所は、前方の公園入り口アーチ下。
未だ握っていたアセナの手を引きすぐに避難。
たどり着くころにはとうとう本降りになって、ざあざあと大粒の雨が地面を叩いていた。
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