第11話王様の耳は豚の耳

『ああそうだ。お前に補足して言っておく』


 ミラレスと会話できる場所。人がいない屋上で翔はミラレスと会話する。


「え?ああ、補足ね…。まだ能力とかの話?」


『そうだ。ん?お前。ビビってるのか?』


「逆だよ。悪魔さん」


『おおおおお…。逆?』


「ああ。悪魔さんに人間の残虐性を見せてもらってさあ。逆に今の自分が考えてる正義についてかな」


『ふむ』


「結局僕は井の中の蛙であって。大海を知らずってやつで。悪魔さんに出会う前は正義の味方にいつかなってさあ。力をつけて。この場合の力ってのは腕力とかじゃあなくて。悪を裁ける資格?って言うのかな?将来は弁護士とか検事とかそういう仕事について。世の悪人をどんどん裁いてさあ。そういうことを考えてたんだ。警察もいいけど警察に出来ることっていろいろと制限があるみたいで」


『ほう。警察ねえ。無力だねえ。政治家って言うのか?そういう仕事の方がいろいろと国の法を決めたりできるんじゃねえの?』


「それも選択肢のひとつだった。でも悪魔さんにあんなの見せられたら…ねえ。どうしても自分の考える正義ってのがちっぽけに思えちゃって…。それにさっきのいじめっ子の二人。結局あれも自己満足って言うか。いじめは確かに犯罪だと思ってるけど。あそこまでやる必要ってあるのかとか。逆にあれだけやって当然って思いもあって」


『お前は『逆に』って言葉が好きだな。逆に…、逆に…』


「それであれ。補足ってなに?」


『それな』


「それな…」


『お前は結構極上の『欲の臭い』を放っていた。だから俺はお前についたんだぜ。それがお前。正義とか迷うとかなんだ。お前はまだ自分の才能、才能か?まあ『欲』深さに気付いてないだけだ。いいか。『欲』ってのは自分中心に物事を考えることだ。これは変わらん。絶対だ。他人のためだとか誰かのためってのは結局自分のための言葉であり。お前の考える正義も理想の世界もお前基準ってことだ。ええ?そうだろ?弁護士?検事?警察?政治家?すべて自分の考えを貫くためだろ?』


「違うよ。って前までの僕なら反論してたかもね。でも悪魔さんの言葉はいちいち説得力があるよ…。確かに僕の理想とする正義は見方を変えれば誰かにとっては邪魔な悪になるんだろうね」


『それな。それで補足だ。お前なげえよ。話が。ま、それも退屈しねえからいいけどよ。これも悪魔の『共通能力』のひとつである『欲の臭い』を嗅ぎ分ける能力な。それをお前にも使うことが出来る』


「え?『欲の臭い』を嗅ぎ分ける能力?悪魔の鼻でも貸してくれるの?」


『悪魔の鼻ねえ。まあ俺たちは鼻で臭いを嗅ぎ分けるわけじゃねえ。顔とか鼻とか腕とか翼もそうだがお前らに分かりやすいよう具現化してるだけでそういう概念はない。イメージっつうか。まあ『能力』って言うしかねえか』


「その能力を使うことでどうなるの?」


『分かんねえか。ピンと来ねえか。はあ。お前はもっと賢いと思ったんだが』


「ごめん…。…あ。『欲の臭い』を嗅ぎ分ける能力ってことは…つまりそれって」


『それな』


「そこは『それな』じゃなく『そうだ』でしょ。それで『欲の臭い』を嗅ぎ分ける能力。それはつまり…、他の人間の『欲の臭い』を嗅ぐことができるってこと?」


『それな』


「当たりってことね」


『まあな。まず説明。他の人間の『欲の臭い』を嗅ぎ分ける能力があるとその人間の本性が分かる。今の時代の人間ってのはその本性ってのをやたら隠したがるよな。本心ではどす黒いことを考えていながら口で言うことは真っ白で綺麗な言葉を使いたがる。あれだろ。思ったことをそのまま口にすると今の時代では『KY』って呼ばれるんだろ?』


「『けーわい』…。まあその通りだよ。『空気』のKに『読まない』のYで『KY』って言うんだよ」


『馬鹿だな。人間って生き物は。まあそこが面白いが』


「誰もが思ったことをそのまま口にしてたら今の世の中は成り立たないんだよ」


『そうなのか?』


「うん。でもそれは昔から変わらないんじゃないかなあ。権力者の前で権力者の悪口は言えないでしょ。どんなに心の中で軽蔑してても」


『言われてみればそうだ。お前頭いいな』


「王様の耳はロバの耳って話があってね」


 翔は『王様の耳はロバの耳』の寓話をミラレスに聞かせる。


『ぎゃははは。まさに『豚の耳』ってやつだな。それで』


「それだけだよ」


『そうか。じゃあ補足ふたつ目。俺がお前についた理由はすでに話した。他の悪魔と殺し合うためだ。悪魔の存在を見つけるにはお前ら人間の『欲』を追いかければいずれぶつかるからな。その能力を人間に貸し出すことで効率がよくなる。お前らなら今の時代の情報とか常識とかを俺らより知ってるからな。悪魔探しは人間にやって貰った方が手っ取り早いってのが本音だ』


「それは悪魔さんが楽をするってこと?」


『まあそうなるか。でも『欲の臭い』が好物である悪魔にとっては楽しみをお前らに分けてやるようなもんでもあるぞ』


「そんなもんかなあ」


『そしてな。俺がお前にそれを教えたのには理由がある。どうやらお前に目を付けた悪魔がいるみたいだ』


「え?」


『さっき派手に俺の『操作』を使ったろ。その時の『欲の臭い』を感じとったか。もしくは…。今の時代ってのはニュースとかで情報が早いんだろ?』


 そこで翔がピンとくる。


(!SNSだ!)


 先ほどの下野と野島の殺し合いを周りの何人かの生徒が動画で撮っていた。それをグループラインで送られて。SNSに上げられたら。ここを特定するのは比較的簡単だ。DMで聞いてきたら教える奴もいるだろう。IPアドレスとかで特定出来る。


『おたおたすんなよ。俺がついてんだぜ』


 ミラレスと翔のすぐそばまで別の悪魔とその悪魔がついた人間が迫っていた。


 ※悪魔の『共通能力』として『欲の臭い』を嗅ぎ分ける能力がある

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豚の共食い 工藤千尋(一八九三~一九六二 仏) @yatiyo

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