第9話ゆとり豚
『ああん?なんだこれ?』
(ほら、さっき見せたスマホの画像の二人だよ)
『それは分かるが。だからって感じだが…』
(そりゃあ悪魔さんにはそう見えるかもだけど。あいつらは弱いものいじめが酷いんだ。自分より強いものには媚びてさあ)
『でも近くで見てるあれはお前だろ?』
(ま、まあ…)
『そんなに言うならお前が止めりゃあいいんじゃねえか』
(それが出来ればやってるよ!僕が?一人で?どうせ返り討ちにあってその日から僕がターゲットになるのは火を見るよりも明らかだよ)
『お前って…意外と平和的と言うか…。今の時代で言うならあれか。頭の中お花畑だな』
(なんとでも言えよ…。ほらほら。強そうなやつにはあいつら頭下げてるよ!ほらほら。さっきカツアゲしたお金の一部を渡してるよ!)
『それが普通なんじゃねえの?人間ってのは』
(普通じゃないよ!)
『じゃあもう少し過去へ行くぞ』
そして翔に見える景色が変わる。
(ここは…?)
『お前が生きる時代より百年近く時を遡った。どんどん行くぜ』
そして翔は現実を見る。
人体実験と称して菌を体内に注射する人間。後ろ手に縛られ頭を踏みつけられ、頭部に黒い布袋を被せられ銃でどんどん頭をぶち抜かれる人間。大勢の屈強な下半身丸出しの男どもに自由を奪われ輪姦される少年と少女。殺した人間を解体し、煮詰めて冷蔵庫に保管するシリアルキラー。
直視するのに耐えられない翔。吐き気を催すも実態がないから感覚だけが暴走する。
『次だ』
斧で頭をざっくりと割る人間。墓場を掘り起こし、死体を犯す人間の姿。切り取った性器を繋げて装飾品を作る人間。スープ鍋に浮かぶ人の脳みそを食らう人間。生きた人の肢体を楽しむように切り刻んでいく人間。
(もういい!やめてくれ!こんなの見たくないよ!)
翔がそう叫んだ時には元の部屋に戻っていた。
『お前の見てる日常ってのはあれだろ。ゆとりって言うんだろ?』
「…。確かに…。さっき僕が見たのは…まさかとは思うけど…」
答えを期待する翔。でもミラレスが発した言葉は期待とは真逆のもの。
『現実だ』
「現実…」
『そうだ。悪魔ってのは職業柄、ん?職業柄であってるよな?まあいろんな時代の人間の欲を食らってきた。でもな。昔の時代の欲ってのは単調なんだよなあ。強烈な分それはそれで食いごたえはあったけどよ。だから今のゆとり?の時代がトレンドになってんだろうな。お前ら進化した人間は今見てきた単純な欲とはまた違うベクトルで尖ってると聞いたんだがよお。まあ、さっき見た過去は比較的今の時代に近い部類だからな。やり方が原始的だが欲の根本はお前らゆとりと似ているとも言える』
「ま、まあ、原始的ってのは合ってるかもね…。今の人間はあんなことをしないから」
『おいおい。お前の物差しで測っちゃいけねえぜ。人間の欲ってのは形やベクトルが違うだけだ。今の時代だろうとああいう原始的な欲の解放の仕方ってのをやってる人間は存在する』
「今の時代に…存在する…の?」
『ああ。そういう連中ともやり合うんだぜ。なんだ。今になって怖くなったか?』
「…いや。逆だよ。悪魔さんの力を使えば僕がそいつらを…」
『そいつらをなんだ?ハッキリ言え』
「…殺すこともできるんだろ」
『殺すこともできるじゃない。殺すんだよ。そういう奴にはたいがい別の悪魔が付いてる場合が多い。見つけた悪魔は殺さねえとな』
「…う、うん」
翔は小さな覚悟を決める。自分が思い描いていた『正義』は漫画のように理想的で子供向けで想像出来るほどのものであり。殺さないと自分が殺される。ほんの少し前まではクラスメイトであるいじめっ子を懲らしめようとしていた自分の『正義』のスケールのあまりにも小ささに自分に呆れる。ため息が出る。でもそれが平和を意味する。平和であるということはいいことなのだ。それでも時に平和に生きている人間を理由のない悪意が襲うこともある。綺麗ごとでは『正義』は貫けないし強くない『正義』では誰も守れない。そんなことを考えた。
そして実験の実戦の場面に戻る。
※悪魔は単調な人間の欲に飽きている
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