第6話もん豚あーぺあれんと

 翔が部屋でミラレスにいくつかの質問をする。


「いやあ。びっくりしたよ。でもホントだったんだね」


『まあ人間は想像出来ないことを実際にイメージすることが出来ない生き物だからな。でもそれを見てすぐに理解できるお前はまあ柔軟な方だと思うぞ』


「林檎とか用意した方がいいのかな?」


『なんだそれ?ああ、果実のことか』


「そうだよ。悪魔さんの好物とか知らないし」


『だーかーらーよおー。人間の欲の臭いが好きだって言ってるだろ。欲まみれの豚が大好物なんだよ。林檎だと。漫画の読みすぎじゃねえか』


「あ、そうだった。それでいくつか質問があるんだけどさあ」


『なんだ?』


「まず『特殊能力』についてね。悪魔さんの『特殊能力』は『操作』だよね」


『ついさっきお前が俺を操作してコンビニの店員?をぶん殴らせただろうが。あー、可哀そうに。あのなんも関係ねえお兄ちゃんは今頃無事かなあ』


「それは悪いと思ってるよ」


『思わなくていい。悪いと思えば許されると思うところが人間って生き物のエゴだぞ。まあそういうのが積み重なって俺の好きな『欲』に育つんだがな』


「それで『操作』には対象をまず悪魔さんに伝えなきゃいけないじゃない」


『そうしてくれないと俺も分からないからな』


「それなんだけど伝え方は『言葉』じゃなければいけないの?」


『そんなことはねえ。俺が分かれば伝え方はなんでもいい』


「よし!」


『ん?』


「いや。そこはある程度予想してたって言うか、期待してたって言うか。じゃあ紙に書いて見せるのは?」


『分かれば何でもいい』


 翔はこの質問で似顔絵や写真、写メを見せることでも対象をミラレスに教えることが出来ることを認識した。


「その対象になにをして欲しいかも悪魔さんが分かれば方法はなんでもいいの?」


『ああ。分かればいい』


「例えば色で『赤は攻撃』、『青は僕を攻撃から守る』、『黄は僕にお金を渡す』とかあらかじめ決めていればその色を見せるだけでその通り動いてくれるの?」


『それだとアバウトだな。まあアバウトなりに動く。攻撃と決めていれば攻撃する。殺すか痛めつけるかは決まってない。そこはもっと細かく決めておいてくれれば『複雑な操作』も可能だな。他者からの攻撃から守るも同じだ。まあ過去にもそういう使い方をした奴はいたな』


「え?過去にも」


『言わなかったか。俺は欲深い人間につく。欲の臭いに導かれてな。そして大概の場合はそいつの欲を食らう。ただお前のように底知れない欲の持ち主について『極上の欲』を食うこともあった。他の悪魔が育てた豚はご馳走だからな。そのためだったらいろいろと動くこともあった』


「そうなんだ。で、質問に戻るね」


『ああ。『お金を渡す』も同じだ。通貨だろ。どいつからどのようにどれぐらいの通貨をと細かく分かるように伝えてくれれば可能だな』


「ようするに言葉以外でも分かるように伝えればどんなに細かいことでも可能ってことだね?」


『ああ』


「これはすごい能力だよ。悪魔さん」


『だから最初に言ったろ。すごいって』


「この能力を上手く使えばなんだって出来る。企業も動かせるし国も動かせる。司法だろうと動かせる」


『動かせる対象者は一人だけだぞ』


「そこなんだ。今日見てて思ったんだけどさあ。悪魔さんは次々と対象者を乗り換えることは可能なの?例えば対象者Aで対象者Bをぶん殴ってさあ。殴った瞬間に対象者Bに乗り移って貰って今度は対象者Aに反撃するっての」


『だから俺が分かるように伝えていたら可能だ。俺が出来る出来ないの問題ではない。お前の伝え方だ』


 翔は考えた。この能力があればどんな裁判だろうと判決を読み上げる裁判官を操作して自分の好きなようにすり替えることもできる、と。万引きで捕まろうと無罪放免も可能。警察官を操作して拳銃で人を撃つのも可能。選挙工作も可能。政治家を操作すれば法律を変えることも可能。今はぼんやりとだけどそのやり方も実現できる可能性はある、と。



 ここにも悪魔が。


「なんでお前はこんな成績なんだ!お父さんがお前と同じころはだな!」


「ちょっとあなた。言い方が良くないですわよ」


「そうか」


 テストの成績が悪かったのか。両親に怒られている子供の姿が。


「そうですわよ。私がいいますから」


「じゃあ頼む」


 そして女に任せて部屋を出ていく男。子供の母親と父親であろう。女は男が部屋を出たのを確認して豹変する。


 パチ―ン!


 ビンタが子供の頬に飛ぶ。


「ああ?あんたがこんな無様な成績取るから私があの人に呆れられるだろうがああああああ!」


 ドスッ!


 蹴りが飛ぶ。吹っ飛ばされる子供。


「こらこらこら。誰が正座くずしていいっつった。ああ!?あんたはそこまで馬鹿なの?誰の血を引いてると思ってんだぁ?ええこら」


 黙って怯えながら再び正座する子供。


 バキッ。


 そばに合ったゴルフクラブを思い切り子供の腕にフルスイングする女。


「痛い!痛い!痛い!」


「あ?なんて?今喋ってるのはお母さんよ。誰が勝手に喋っていいっつったあああああああああああ!」


 そしてガンガンとゴルフクラブで突く。突く。突く。突く。


「お前はやればできる子だろうがああああああああ!やらねえのはお前が怠けてるだけだろがああああああああ!お前は良い高校、良い大学、いい会社に入ってエリートの道を歩くんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 モンスターペアレント。子供に自分の欲を押し付ける人間。この女にある悪魔が目を付けた。


※悪魔の『特殊能力』は悪魔がついた人間が悪魔に分かるように伝えればどんなに細かい使い方も可能である

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