第3話小鳥遊(ことりあそび)さんと悪魔さん
ミラレスが次に嗅ぎ付けた『欲の臭い』。
『これは極上だ。へへっ』
ミラレスが向かった先の人間。彼の名前は重要。この物語の主人公・小鳥遊翔(ことりあそびつばさ)。高校三年生の少年である。子供の頃は普通に「ことりあそび」君と呼ばれていたが高校にもなると「え?『たかなし』じゃないの?」と笑われる。それが彼の不満の一つ。
『よう』
平日の夜、自分しかいないはずの部屋に突然聞こえた他人の声。翔は一瞬だけ体が固まる。
(ん?気のせい?スマホかタブレットからか?)
部屋にはSIMなしスマホが十台以上。タブレット三台にデスクトップパソコンが一台とノートパソコンが三台。ガジェットマニアである翔。こういうことはよくあることとすぐに判断する。そもそもオカルト的なものは一切信じない。すべての現象に理由があると理解している。よく言えば大人。悪く言えば中二病。自分は特別優秀だと思ってやまない考えの持ち主である。
『聞こえねえのか。ことりあそびつばさ君よお』
え!?今確かに!?気のせいではない!心臓をバクバクさせながら椅子から立ち上がり周りを見回す翔。六畳の自分専用の部屋。家にいる間デスクトップパソコンは常に点けっぱなしにしているが。そこからでもない。不気味そうに部屋中に視線をやる。首を左右に回す。悪魔の姿で実体を見せるミラレス。いきなり目の前に現れたミラレスと目が合い、姿に驚き後ろにへたり込む翔。
「あ…、悪魔…だ…」
『ほう。当たりじゃねえか。よく分かったな』
漫画やラノベのような出来事に困惑するも逆にそういうものが身近にあった為に自然と次の言葉が出てくる。
「ほ、ホンモノ?」
『そうだ。だからこうやって分かりやすい姿で出てきてやったんだよ』
ここから会話のキャッチボールが続く。
「悪魔がなんで僕の前に?」
『さあな。なんでだと思う?』
「転生とか転移とか…じゃないよね?」
『転生?転移?なんだそれ?』
ホンモノの悪魔は『転生』とか『転移』って言葉を知らないんだと思う翔。
「まさか…とは思うけど…、僕を殺しに?」
『お前を殺す?まあそう誤解されても仕方ねえよな。でも冷静に考えろ。お前らは悪魔にそういうことを、まあ『命』だけは勘弁してくださいとかあ?『魂』を抜くんですかとかあ?ってよく言うよなあ。流行ってんの?お前を殺してなんか俺に得することでもあるのか?』
「ない…よね。でも…食べたりとか?」
『お前を?食べる?俺が?勘弁してくれよ。もっと美味いもんを食ってるぜ。悪魔は美食家なんだぜ。それによお。単純に考えろ。俺が普通の人間の姿で現れたらどうした?お前なら』
「ふ、不審者だって、叫ぶかなあ…」
『だろ?逆上して襲ってくる奴もいれば騒ぐ奴もいる』
「でも…、その姿でも騒ぐんじゃない?」
『人間ってのはよお。俺たち悪魔のイメージだけはある程度固まってんだよ。だからそれに近い姿で登場するのが一番だろ?実際お前も驚いたけど叫ばなかった。だろ?それに誰かを呼ぼうと俺は姿を消せばいいだけ。だろ?だから一人の時を狙ってな。話し合いが出来る状況を狙ってだな』
「…で?その悪魔、悪魔さんが僕になんの用…なの?」
『それそれ。それだ。それに今なんて言った?お前』
「え?なんの用かって…」
『違う違う。その前。俺のことをなんて?』
「悪魔…さん?」
『悪魔さん…。それいいな』
「え?」
『おう。お前いいな。俺はミラレスって呼び名、まあ悪魔同士での記号だな。そう呼ばれてるんだがよ。悪魔さんっていいな。お前はそう呼んでいいぞ』
「悪魔さん?」
『おおお…。いいじゃーん…』
「それで。悪魔さんの目的ですが…」
『それな。悪魔ってのは『欲の臭い』が好きでよお。お前からは極上の『欲の臭い』がプンプンしててな。お前の『欲』は底知れねえ。こんな『欲の臭い』は久しぶりだ』
「『欲の臭い』?」
『そうだ。お前の願いを言え。それを俺が全部叶えてやる』
「悪魔さんが?」
『おおおお…。いい…。それいい…。お前、俺との相性もいいんじゃね?』
「願いを叶えてくれるの?」
『ああ』
「それって一つだけ?いやさっき『全部』って言ったよね?」
『そうだ。お前のそういうところが極上たる由縁だ。他の奴と違う』
「そうなの?」
『ああ。他の奴はだいたい『命を獲ったりしない?』とか『魂を獲られたりしない?』とかよお。意味がねえ。ここからが本題だ。お前は俺との相性がいい。俺には分かる。悪魔も悪魔でよお。悪魔の事情ってやつがあんのよ』
「悪魔さんの事情?」
『おおおおお…。いいなあ…。それ。でもその表現はこの場合にはちと違う。他の悪魔のことを指す。まあ間引きだ』
「間引き?」
『そうだ。悪魔は複数いらねえんだわ』
「へえー。でもちょっとピンとこないかなあ…。他にも悪魔が、あ、悪魔さん、あ、悪魔か。悪魔がいるの?」
『ああ。存在する。でもよお。悪魔同士がぶつかるとちと大変でな』
「大戦争とかになるとか?」
『違うかな。まあ正解半分だ。決着が永遠につかない。それが現実だ。戦いだけが永遠に続く。それが悪魔同士の争いだ』
「でも間引きって数を減らすことでしょ?」
『そうだ。俺以外はいらねえ。必要ねえ。他の悪魔も同じ考えだ』
「それで…?」
『決着がつかないならどうする?代理戦争が手っ取り早いだろ?』
「代理戦争…、僕が!?」
『そうだ。お前の『欲の臭い』、そして底知れぬ『欲』。お前はこの俺の代理人に相応しい。そういうことだ』
この少年、小鳥遊翔はこの世の悪をすべてなくしたいと思っていた。
※悪魔は自分以外の悪魔の存在をすべて消したいと思っている
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