第2話焼き肉を夢見る豚と『運』の存在を信じる豚たち
『ミラレス』
『あ。セポンじゃねえか。お前なんでここにいるんだ。こんな地球に悪魔は複数いらねえだろ。わざわざよお』
ミラレスと呼ばれた悪魔は特上の『独占欲』を食った悪魔である。ちなみに質量の概念など存在しない悪魔にとって『距離』の概念もない。質量をもたない物体は光より速く移動することが物理的に可能だと言われているが現代技術をもってしてもそれは不可能である。ちなみに光より速く移動することが出来ればタイムマシーンは理論的に作れる。イコール悪魔には時間の概念もない。セポンと呼ばれた悪魔もミラレスと同じ悪魔である。悪魔には特殊能力が二つ存在した。一つはどの悪魔にも使える『共通能力』である。そしてもう一つが『その悪魔にしか使えない能力』、略して『特殊能力』である。瞬間移動や変化などは『共通能力』の一つであり。ミラレスが持つ『特殊能力』は『操作』。言葉通りで対象物を自由に『操作』することが出来る。ただし万能ではない。ミラレスが『操作』出来る人間は一度に一人まで。
『その様子じゃ聞いてないみたいだね。ミラレス』
『なんだあ。聞いてねえって』
『この時代のこの地球が今はトレンドなんだって』
『は?』
『文明がそこそこ発達し、そして優秀な指導者も存在しない。俺たち好みの『欲』が無限に溢れてる』
『なーるほど。特上どころか極上の豚が育つわけだ。だがよ。最初に目をつけたのは俺だぜ。いや、鼻か』
『それはみんな同じことを言う。俺も特上のを食ったばかりだ』
『んだと?』
セポンの『特殊能力』は『確率操作』。
「(おいおい…。一体今日だけでいくら突っ込んでると思ってる!これで九枚目だぞ!万札九枚!諭吉が九枚だぞ!あ、九人か。どっちでもいい!全然当たんねえじゃねえか!嘘だろ!遠隔だろぉ!)」
パチンコ屋で朝からパチンコに興じる男。名前はどうでもいい。すぐに消える存在だからである。男はパチンコ狂いであった。仕事などとっくに辞めた。サラリーマンでコツコツ真面目に働いても日給換算すれば一万円ちょっと。仕事帰りの二時間でちょっとツケば五百円が五万円になった。それが三日四日続けば月給を超えた。馬鹿らしい。仕事中にもパチンコを打った。注意されても止めない。そしてクビになった。別にどうでもいい。俺はパチンコで食えると本気で思った。パチプロなど今や都市伝説。本当に食っているパチプロは仕事として国の決めた最低時給を遥かに下回る時給の台を見つけてはひたすらぶん回す。楽しいとはとても感じない。そして時給にも達しないレベルの台が溢れるホール。多くの豚が一攫千金を夢見て懲りない毎日を過ごす場所。それがパチンコ屋。男は消費者金融から限度額いっぱいまで借金をしている。
「え?過払い金?なにそれ?え?金が戻ってくる?」
家賃、光熱費、手をつけてはいけないお金を男はどんどんパチンコにブッコんだ。
「(十万円…。大丈夫。二万五千発出ればチャラだ。ダメなら明日出しゃあいいんだ。金なら…)」
そして持ち金が尽き、台を思い切りぶん殴る男。
ガンッ!
(くすくす)
(ばーか。ざまあ。他人がハマるのは気持ちいー)
(台パンて…。あのおっさん…、一回も当たってねえんじゃ…、くすっ)
(他人の当たりはムカつくけど当たらねえのは最高だなあ。ぷっ、こいつこんなに回らねえ店で千回越えだよ!おもしれえ!ゔぁーーーーーーか)
周りの人間の心の中は大体こんなもんである。銀行へ行くことも考えたが残高がない。腹が減ってることに気付いたが財布に札がない。小銭を確認する。ギリ立ち食い蕎麦なら食える。かけそばに大量の七味をかけてかっ食らう。その方が大量に水を飲むから腹が膨れる。そしてその夜セポンと出会う。
「『欲の臭い』だと?」
『ああ。お前の『欲の臭い』は特上だ。通貨であろう』
「通貨?」
『ああ。お前の時代ではこう言えばいいのか。金だろ』
「金?」
『ああ。お前の欲はいい。とてもいい』
翌日から男は連日パチンコで馬鹿勝ちした。『確率操作』の特殊能力を持つセポンにはうってつけの豚。
「はっはぁー!止まんねえ!わりいな。皆さん」
悪魔であるセポンはパチンコの仕組みをすぐに理解した。
『この319分の1を319分の319にすればいいのだな』
「(そうだ。そして確変突入率が50%だから、なんて言えばいいんだ…、えっとぉ…)」
『この球を効率よく短時間でよりよく出せばよいのだな?』
「(そう!そそそ!頼むぜ!)」
悪魔の登場自体が信じられないことなのである。悪魔に確率操作をしてやると言われた男はその言葉を100%信じた。そして現実となる男の欲。
「へへへへ…。借金も全部返して…、風俗にキャバクラ、いやまずは肉だ。焼き肉。美味いメシ。それから抜きだ」
連日パチンコで十万、二十万と勝ちまくる男。
『次だ』
「まあ待て。勝ちすぎると店から出禁食らっちまう。これからはほどほどにだ」
『何言ってる。次だ』
「だからよお。おめえには感謝してるしこれからも頼むからよ。だから『ほどほど』でいいんだよ」
パチンコに狂い、一時は強盗まで考えた男はたかが数百万円の勝ちで慎重になった。
『なんだそりゃあ。お前の『欲の臭い』が並以下になってきた。こっちも選ぶ権利がある』
「待てよ!じゃあこうしよう!軍団を作って他の人間の台の確率も操作してくれよ!」
『は?『欲』は数じゃない。質だ。お前、大事なことが分かってねえみたいだな』
「待て!待ってくれ!じゃあ必勝攻略法を商材で売る会社を作ってだな!」
『は?同じことを言わせるなよ。人間が。俺はお前の『欲の臭い』を買ってたんだぜ。がっかりだぜ。俺の見る目のなさに。いや、この場合臭いを嗅ぎ分ける鼻のなさか』
「お前がいなくなると俺はどうなる?最初に言ったよな!?『命』は獲られないと!」
『契約解除に『命』などいらん。お前の一番大事な欲を貰う』
「は?俺の欲?そりゃあいい。なーんだ。ギャンブルにハマった俺の欲を奪うだと?パチンコにハマったこのギャンブル依存症を治してくれるってか?それはそれでいいなあ!まあ貴重な経験をしたと感謝するわ。借金もなくなったしよお。金もそれなりに蓄えたし」
『そうか。よかったな。今後お前の人生、人生って言えばいいのか?お前の選択、行動はすべてお前にとって悪い結果となる。それだけだ』
「え?ちょっと待てよ!それって不幸な結果しか待ってないってことじゃねえか?」
『さあな。人間どもはそれを『運』と呼んでるんだろ?単なる結果だ。深く考えるな。じゃあな』
「お、おい!待てよ!」
これがセポンの特殊能力。
※悪魔にはそれぞれ共通して使える『共通能力』とその悪魔にのみ使える『特殊能力』が存在する。
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