第二幕九話


「それでこの子を殺さずに連れてきたということですか?」


「そーゆーことだね。」


ヘスティアは少し意外そうな顔をしていた。この行動のどの辺に驚いたのだろうか……?


「ティナさん、あなたはどうして一人で戦地にいたのですか?」


「この辺に住んでる。」


は……戦地に住んでいる?こんな幼い子供が?


「それは生まれた時からですか?」


「ん。ずっと、暮らしてる。」


「いやいや、そんなことあんのかよ?」


ティナはこれまでも人を殺してきたような感じだったが、そういうことだったのか?


「これはかなりの異例ですね。戦地に住んでいるのは魔族だけだと思っていたのですが。」


「え、魔族って戦地に住んでるの?」


「ええ、魔族は戦地に国を建てて、全員そこで暮らしています。この世界で唯一の国の制度がある種族ですね。」


道理で魔族の人は見たことがなかったわけね。


「私、おかしい?」


「いやいや、そんなことないよ。」


咄嗟に否定をしたが、確実におかしいのだろう。一体、どんな理由があって……こんなことになったのだろうか。


「あなたの両親は何族ですか?」


「獣族じゃないの?」


見るからに耳が生えているし。


「族?」


「言い方を変えましょう。あなたの両親の耳は同じですか?」


「ううん。」


え……?ってことはハーフなのか?でも、それだけで戦地に住むことはないだろう。


「これでハッキリしましたね。彼女がハーフだから、戦地に住んでいるのですよ。」


「いや、なんでハーフってだけで戦地に住まないといけないんだよ!」


「ハーフってのは昔から嫌われているのですよ。例えばティナさん、耳を引っ込めることが出来ますか?」


「ん。」


その姿は人族と全く同じだった。


「そう、こんな風にスパイとして使えるのですよ。多くの血を引けば引くほど、スパイとして使えるしそれぞれの種族の能力も使える。つまり、恐れられて世界から排除されていたのです。」


なるほどな……。強いものや未知なものは恐れられて、排除される。これは俺のいた世界でも同じことだった。


「ティナさん、あなたの両親はどうされているのですか?」


「死んだ。」


え?


「家に帰ったら、家ごと踏み潰されてた。」


「巨人族ですか……。」


「てことはティナは今、一人で暮らしてるのか?」


「ん。」


この戦地で一人で生き抜いているなんてスゴすぎる。


「ロージェン、ここに家を建てましょう。私が暫くの間は面倒を見ます。」


「マジで!ヘスティア、神かよ。」


「ええ、そうですよ。」


土地さえあれば、立派な建物を創れる。ほんとに魔法とは便利である。高さを出すと、見つかりやすくなってしまうから家は一階建てになった。


「ロージェン、ヘスティア、ありがとう。」


ティナが可愛らしく頭を下げたのを見て、嬉しくなった。この世界で一人でもヘスティアが居れば安全だろう。





ティナの件が一段落つき、ネージュを迎えに行った。


「ヘイボーイ、ネージュなら、もう少しだよ。」


「う……キースさん。」


未だにキースさんを見たら、胡散臭いおっさんと言ってしまいそうになる。


「ユーはまた、何かやったみたいだね。」


「へ……別に何もしてないですよ。」


この人はたまにこちらを見透かしているような感じがして怖い。後になって理解したことだが、ネージュの一件も俺は『がんばって』って言われた。このおっさんの胡散臭さが格段に上がっている。


「久々に、ネージュとファイトしてみたら?」


「いや、いいですよ。」


ネージュは確かに強いが、今では俺の方が確実に強いことが分かっている。ヘスティアにあれだけ鍛えられて負けたら笑えない。明日までは……。


「そう、私としてはやってみたかったんだけど。」


「ネージュ!」


「まあ、いいや。ロー、帰ろ。バイバイ、キースさん。」


「しーゆー。」


この挨拶をされると、本当にまたキースさんと会うことになると思ってしまう。出来れば、怖いから会いたくない。


「ねえ、ロー。あの時の女神と会わせてよ。」


あの事件以来、ネージュはヘスティアに会わせて欲しいと頼むようになった。


「俺も最近、会ってないから無理だよ。」


ヘスティアが会わないと言ってるのだから、会わなせない方がいいのだろう。だから、最近はもう会ってないことにしている。


「えー。お礼だけでも言いたかったのにな。」


ネージュは月一くらいでこんなことを言っている。いい加減飽きないのだろうか。


「ねえ、ロー。今日は徹夜した方がいいかな。」


明日はネージュの十五の誕生日だ。つまり、『恩寵』を手に入れる日だ。


「とか言って、どうせ寝るでしょ。」


「うう……。だって、眠いんだもん。」


こういうことを聞くと、ネージュには戦争は向いていない気がする。戦争だと、夜通しで作戦とかありそうだし。


「徹夜するなら、付き合うよ。」


「徹夜で付き合うなんてやらし〜。」


男子高校生みたいな言っている姉に少し呆れる。


「そんなこと言ってると、やめるぞ。」


「嘘嘘嘘。辞めないでください。一日中、ローの言うこと聞くから。」


いや、そんな誕生日嫌だろ。


「はあ、別にいいよ。」


「ホント!ありがとう。じゃあ、チェスしたい。」


「おっけー。」


俺が考えたということにして、チェスやら将棋をネージュとやったりしている。ちなみに二人ともお気に入りはチェスだ。チェスは一度死んだら、もう一度復活しない残酷なボードゲームだ。


「なんか、厨二病みたいな顔してる。」


「おい、やめるぞ。」


「一週間、言うこと聞くから許してください。」


そのうち、一生言うこと聞くとか言われそうだ。





「ハッピーバースデー。」


うつらうつらしていたネージュの目が俺の一言で急に覚めた。


「『恩寵』どうかなぁ?」


『恩寵』は誕生日が来ると、自分だけの視界に名前と説明が表れるらしい。


「『操糸』とても丈夫な糸を生成し、操れるみたい。強いかな?」


「うーん……分からない。」


糸の強度と操れるレベルによるだろう。でも、ネージュの『恩寵』なら相当強い気がした。


「明日、キースさんに聞いてみるね。」


「うん、そうするといいと思うよ。」


二、三年後、俺はどんな『恩寵』を手に入れれるのだろうか。

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