第二幕八話

ヘスティアと出会ってから二年の月日が流れた。ネージュは相変わらず教会に通い俺は湖に通う日々を楽しんでいる。


「行ってきます。」


俺は転移魔法を誰かに見られないように、家の裏に一つの建物を創った。魔法で透明加工して誰からも見えないようにしている。つまり、秘密基地みたいなものだ。そして、いつものように湖に転移した。


「こんにちは。」


俺の身長は十五センチくらい伸びたが、ヘスティアの身長は伸びた様子がない。


「今日は何する?」


「また、ロージェンの言っていたスポーツを試してみたいです。」


俺らは毎日、訓練している訳ではなくよくこうやって遊んだりしている。戦地の周りの切り倒した木もたまに増えて、魔力は増えている。


「おっけー、じゃあ今日はバスケットボールのワンオンワンね。」


「いいですね、やりましょうか。」


「創造……」


俺は詠唱して、湖のほとりにバスケットコートを創り出した。たまにこうして創るため、湖を中心とした運動施設が出来つつある。


「バスケットボール……ですか?」


ヘスティアに簡単にバスケットボールとワンオンワンのルールを説明する。ちなみにルールはよく分かっていないから、てきとうだ。


「じゃあ、ハンデはいつも通りでいいですか?」


「うん。」


いつもスポーツをする時は、ヘスティアの方が魔力により圧倒的に運動神経がいいから、ハンデをつける。大抵は俺は魔法を使って良いというハンデだ。


「じゃあ、始めますか。」


ヘスティアは綺麗に俺にバスケットボールをパスする。まあ、バスケットボールやるの初めてだから上手いとかよく分からないんだけどね。俺は漫画の見様見真似でドリブルを仕掛ける。足りない技術を魔力と魔法で補っている。氷の壁を建てて、それを駆け上がって……


「甘いですよ。」


ヘスティアは綺麗な回し蹴りで氷を切り落として、ボールを奪った。そして、そのままリングまで飛んで華麗にダンクをする。


「まだまだだからな。」


「ええ、望むところですよ。」


ドリブルを仕掛けようとすると、ヘスティアに止まれのジェスチャーをさせた。


「ロージェン、誰かがこの辺りに入ってきました。様子を見に行きましょう。」


俺は黙って頷いて戦闘準備をする。


「あれは……ロージェンと同じくらいの年齢ですね。」


「そうだね。」


身長は俺と同じくらいで可愛らしい見た目をしている。控えめな耳が生えていてるから獣族のようだ。


「俺が行ってきます。」


戦地に居るってことは殺しに来るだろう。しかし、あの年齢だと俺には敵わないだろう。逃げてくれると嬉しいな。


「ええ、私はバスケットボールの練習をしていますね。」


俺は敵意を見せないためにゆっくりと歩いて声をかける。


「ねえ、君」


声に反応した彼女は凄いスピードで飛んでくる。


「速っ。」


サーティス騎士長よりは全然遅いけど、俺よりも速いかもしれない。魔法で槍を創り、全方位に飛ばす。しかし、彼女は全て避けて蹴りをいれようとして止まった。


「ダメ……これ以上殺しちゃダメ。」


彼女は必死に攻撃を止めようとしていた。そう、彼女は戦地にも関わらず殺さないように頑張っている。俺はそれを見て、自然と涙が流れてきた。彼女はこんな世界でも殺さないように生きているのだ。


「ねえ君、名前は?」


「ティナ。」


「俺はロージェンだ。よろしく。」


「うん、よろしく。」


ヘスティアと会ったのが一つのターニングポイントなら、今日がもう一つのターニングポイントなのだろう。


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