第二幕十話
「ロージェン、これからウェスタ街に行きませんか?」
ウェスタ街は俺とヘスティアが一緒に買い物に行った街で、たまに買い物に行っている場所である。
「何か買い物?」
「それもありますけど、ウェスタ街で剣術大会があるのでティナと一緒に出てみてください。」
「私も?」
ティナは少し驚いたような反応をしたが、無理もない。ティナはヘスティアに剣を習い始めてから一ヶ月も経っていない。
「ええ、あなたならそこそこ行けると思うのですよ。」
「じゃあ、やる。」
ティナはこの一ヶ月足らずですっかりヘスティアにちょうきょ……懐いたようだ。一瞬、ヘスティアから凄まじい殺気が飛んできた。やっぱりこいつは心が読めるのかもしれない。
「今日は何買いに行くの?」
「ティナさんの服を買いに行こうかと思っています。」
「また、あの店行くの?」
「ええ、あの店に行きますよ。」
そう、あの大行列が出来ていた服屋だ。俺らはこっそり魔法を使って、コピーすれば大丈夫な店だ。
「じゃあ、転移しましょうか。」
「転移……出来ない。」
当然ながら、ティナは魔法を使えないから転移は出来ないだろう。
「では、たまには歩いて行きましょうか。でも、ロージェン大丈夫ですか?」
ん……?嫌な予感。
「私達を寝袋に入れて、担いで街まで行けますか?」
「俺は誘拐犯か!」
両脇に少女を抱えた少年って絵面悪すぎだろ。
「運んでくれるの?」
「う……。」
ティナの純粋な瞳でそんなこと言われたら、断れない!
「おんぶ……ならいいよ。」
「じゃあ、私はだっこでお願いします。」
「赤ちゃんかよ。」
さっきから、絵面が悪い案ばっかりだな。車でも創って乗ってきたいんだけどこの森、邪魔なんだよな。
「じゃあ、いきましょう。」
ティナは黙って俺の背中によじ登っている。おんぶって能動的に出来るんだ。
歩くこと十五分、ウェスタ街にはすぐ着いた。
「意外に近かったんだ。」
「ええ、いつでもロージェンをパシらせれますね。」
「いや、パシらせんなよ。」
「仕方ないですね。」
なんで、仕方ないとか言われなければならないんだ?
「長い……。」
ティナは店の行列を見て、たじろいでいる。
「まあ、これに並ぶ必要ないんだけどね。」
俺らは長蛇の列の隣を通り抜けていく。店に入ると、前回とは違う服が沢山あった。前世の世界でも服屋はこんな感じだったのだろうか?万華鏡のように季節ごとに色取りや素材が変わっていく。
「家みたいに魔法で作ればいいんじゃないの?」
何も知らないティナは大きな声で言ってしまった。
「お客様……」
「忘却……」
ヘスティアの足元にいつもより複雑ではないが、大きな魔法陣が形成された。そして、小さな魔法陣が出来て俺らは転移した。
「あれ……夢?」
転移魔法で湖に戻ったティナは何が起こったかは理解していないみたいだ。
「ヘスティア、何したの?」
「お店の半径一キロ圏内の者の記憶を全て消し去りました。それに、魔法カメラよデータも消し去ってここに転移しました。」
ヘスティアは毎度の如く、ありえないような魔法をしてくれる。
「って、ティナも転移出来るなら最初からそうやって行けば良かったんじゃない?」
「そうですけど、たまには歩いて行きたかったもので。」
ヘスティアに反省の色は見られない。俺のおんぶの労働力は無駄だったらしい。この後、ティナにお店の説明をしっかりしておいた。
「うわぁ。」
ティナはヘスティアとの家の部屋の服保管室を見て、驚いている。ちゃっかり、今回売っていた服も中にあった。
「これ。」
ティナが指を指した先には、俺が前世の服をイメージして創った服があった。
「これが、いい。」
ヘスティアはかなり悲しそうな顔をしていたが、なんやかんやでティナが望んだものをあげた。ティーシャツの上から、ゆったりパーカーを着てデニムのショートパンツを履いている。挿絵で見た感じの組み合わせだが、ティナにはよく似合っていると思う。
「では、剣術大会に行きますか。」
俺たちは今度はちゃんと、転移魔法を使った。
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