第二幕三話

重い瞼を開くと、いつもと違う天井が広がっている。昨晩、魔法で色々とアレンジしたからいつもとは別物だ。自分の部屋を満足気に見渡して、部屋を出る。


「ロー、おはよ。今日、剣の相手してくれる?」


ネージュに誘われるのは久しぶりだった。だが……


「ごめん、先約あるから。」


ヘスティアのおかげでネージュと張り合える力を手に入れたかもしれないが、今はヘスティアとの訓練の優先順位が一番だ。


「そう、じゃあまた今度お願いね。」


「うん。楽しみにしててね。」


家を出て誰も周りに居ないことを確認する。確認したらすぐに、転移魔法でいつもの湖へと転移した。


「ロージェン、今日は早いですね。」


「転移魔法を使ったからね。」


家からここまでは一時間かかるから、転移魔法はかなり便利だ。


「では、折角ですし内地へお出かけしましょうか。」


「なんか、買い物でもあるの?」


「ええ、ロージェンに服を選んで欲しくて。」


あー……。


「いつも、同じ服だもんね。」


洗濯とかどう……


バァン


ヘスティアの大砲のような魔法が俺の頬をかすめた。


「これ以上、考えると当てますよ。」


「考え読まれてんのかよ!」


「ええ、ロージェンが私に抱いている卑猥な感情などは全て筒抜けですよ。」


「よし、分かった。俺の考えは読まれてないんだな。そうだよな。」


ホントにそんなこと考えてないからね、ホントだよ……。


「それと、私の服はちゃんと魔法で綺麗にしてますからね。」


ヘスティアはまだ根に持っているようだった。





街の真ん中に人族が転移する訳にもいかないから、超高速で街へと移動した。ヘスティアが選んだ街、ウェスタ街はかなり発展している様子で人が賑わっている。


「まず、服からでいいですか?」


「うん、そのために来たんだしね。」


ヘスティアは迷わず、めちゃくちゃ高級そうなお店の入口へと進んだ。そこには、長蛇の列があり中々入れそうにない。


「ヘスティア、一旦違う店からいかない?」


「いえ、その必要はありませんよ。」


「おい、こんなのに並んでたらジェットコースター三回くらい乗れるぞ。」


「ジェットコースターってなんですか?」


あ……この世界にジェットコースターとかないんだった。


「こんなに並んでたら、私なら種族の一つや二つくらい滅亡させれるでしょうね。」


「いや、例え方が恐ろしいからやめろ。」


こんな、他種族で溢れかえっている所で言うことでは……。


「あれ、ここ人族いなくね?」


「よく気づきましたね。この列には下位種族はいません。なぜだか分かりますか?」


うーん……人族だけでなく、下位種族は全て居ないらしい。立ち入り禁止だったら、ヘスティアは来ようとはしないだろう。下位種族が居なくて、俺達はこれから店に入るということは……魔法?


「魔法が使えないと殺される……とか?」


「惜しいですが、全然違いますよ。」


「いや、どっちだよ。」


「ここは内地ですよ。殺されるなんてことはありません。正解は中に入れば分かりますよ。」


「答えが分かるのは何時間後だろうな。」


「三十秒ですね。」


え……?ヘスティアは長蛇の列の隣を普通に歩き、こっちに手招きしている。


「何をやっているんですか?早く来ないと置いてきますよ。」


「え……でも」


「いいから、とりあえず来てください。」


隣の列に怯えながら、ヘスティアに着いていくとお店の人に普通に挨拶されて店に入れた。店の中は美術館みたいになっていて、服が飾られている。


「答えは分かりましたか?」


「もしかして、ヘスティアってビップ?」


「惜しいけど、全然違いますよ。」


だから、どっちなんだよ。


「正解は、あの列は入場券を買うために並んでいたんですよ。」


「入場券?」


ヘスティアが少し溜息をつく。


「魔法という着眼点は良かったんですけどね。」


魔法、入場券、下位種族……。


「そういう事か。魔法が使える種族は創造魔法で店の服を作れるから、入場料が発生するのか。ってことは……俺らってただでもらえるの?」


「ええ、そうですよ。私、生まれてからお金を使ったことはありませんよ。」


言ってることが微妙に貧乏くさい。


「無断で創造魔法による服の販売は法律で禁止されていますから、そこまで警戒しなくてもいいと思うのですけどね。」


「俺たちがやることは犯罪じゃないの?」


「ええ、問題ないですよ。モラルに反するだけであって、法律には載っていませんから。」


モラルには反することには間違いないらしい。


「あ、あの白のやつとかどう思いますか?」


「おー、似合いそうだね。」


ヘスティアが着て、そのバックに海があれば完璧だろう。


「おー、あのネックレスいいね。」


店のガラスケースに入っているシンプルなシルバーネックレスに心が惹かれた。前世ではオシャレをする機会など、当然なくて自分のセンスが良いのかは分からない。


「おー、確かに良さそうですね。あちらのシンプルな上着と合わせたら、いい感じになりそうですよ。」


「なるほど……。」


暫くして、全ての服を見たり試着したりし終えたので、そろそろ創造する服を選ぼうかと思いもう一回、回ろうとした。


「何やってるんですか?」


「え、創造する服を選ぼうかと。」


「その必要はありませんよ。私が今から、この空間内の服をコピーしますから。」


ヘスティアは三秒ほど目を閉じて、直ぐに目を開いた。


「コピーは終わりました。じゃあ、出ましょうか。」


「ねえ、それするなら最初からコピーしとけば良かったんじゃない?」


「いえ、そうしたらロージェンとの買い物デートを楽しめないので、最後にする予定だったのですよ。」


「う……。」


不覚にもドキリとしている自分がここには居た。

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