第7話

この剣教室では、金属がぶつかり合う音が広場に響いている。ガースがもうすぐ十五歳になって騎士になるから、今は色んな人から練習を申し込まれている。ガースの実力なら入隊試験も受かるだろう。


「ヘレナ先生、教会騎士って何ですか?」


僕は家族総出でネージュの教会騎士のスカウトを祝ったが、教会騎士が何かはまだ分かっていない。美味しいもの食べれたからいいんだけどね。


「教会騎士は人族の制度ですよ。人族で公認されている七つの宗教があるんですけど、宗教一つにつき一人の騎士をスカウト出来るんですよ。そのスカウトを受けるとかなりの待遇を受けると聞くわ。教会騎士は普段は戦争に参戦しないけど、非常事態に戦況をひっくり返す用の最強の予防線みたいよ。」


「僕の姉って凄いんですね。」


「え?ロージェンのお姉さんが教会騎士にスカウトされたの?それはすごいことだわ。相当の強さじゃないとスカウトされないと思うわ。」


「へー。」


ネージュってそんなに強かったんだ。


「他にも聞きたいことあるの?もともと、聞きたいことがあったら会いに来てねと言ってたわね。」


そういえば、ガースの友達のことヘレナ先生に聞いていなかった。ここの生徒なんだから、何か知っているかもしれない。


「ガースの友達の人が死んだことに心当たりとかないですか?」


「え……あなた、その事知ってたのね。」


ヘレナ先生は目を見開いて、驚いている。この感じだと、ガースは誰にでもは言っていないらしい。


「はい、ガースに教えてもらいました。僕には『鑑定』の能力をもって直ぐに死ぬ理由が分からないんですよ。」


「あなたは、『鑑定』の利点しか見てないわね。『鑑定』ってのは、誰かが隠しているステータスを暴くこともできるのよ。」


なるほど……相手の力量が分かっても、味方の秘密を暴くと恨みを買われる訳なのか……。


「だから、彼の同期で一番怪しいのはイアベルよ。彼女はまだ一年目なのにもう、一つの部隊の隊長を任せられているわ。相当な実力の裏には何かしらの力がある筈よ。他の同期はパッとしない人達らしいわ。」


「ありがとうございます。」


とりあえず、イアベルって人に話を聞きに行くとするか。


「私はクリス、ガースの友達が剣教室を辞めた時に最後に会ったのだけれども、彼が死ぬとは思っていなかったわ。彼は人の秘密を見てしまって死んだ可能性が高いわ。あなたは、あまり首を突っ込まない方がいいわ。分かった?」


「はい、分かりました。」


なんて、口だけの返事をヘレナ先生は信じてはくれないだろう。これから、イアベルに聞いて真相を確かめる。はじめて掴んだ可能性だから、大事にしたい。





イアベルさんを探すために人族の騎士が暮らしている街へと向かった。いつもの街よりも少しだけ豊かそうな街が見えた。騎士は筋肉ムキムキの顔が怖そうなおじさんだらけかと思っていたが、かなり違うようだった。この世界には魔力がある。だから、筋力の差など大したことなどないのだろう。


「すいません、少しいいですか?」


比較的、身長の低そうな男に後ろから声をかけると、顔がカッコイイのだが目つきが悪くて怖かった。


「何の用だ?」


声にもどこか威厳を感じられ、雰囲気だけで強そうに見える。


「イアベルって人を探しているんですけど、知りませんか?


「イアベルだと?俺の娘だが、どうかしたのか?」


まさかの父親かよ。下手なこと言えないなあ。


「イアベルさんに話があって来ました。」


「お前みたいなガキがか?」


僕を見る目が怖くなっていく。しかし、こんなところで怯んで居られない。


「はい!」


ビル風が通り抜ける少しだけの間、男は黙る。


「分かった、いいだろう。俺の娘との面会を許可しよう。向こうに見える大きい屋敷に行って、これを持っていけ。俺の紹介証だ、これがあれば入れてくれるだろう。」


「ありがとうございます。」


僕は深々と頭を下げて、ちょっと怖い男の人の前を去った。





でっか……。屋敷の前に着くと、思っていたよりも三倍ほど広い屋敷が広がっていた。中は門で隠れてよく見えないが、そこら辺の城よりかは広いだろう。


「すいません、えっと……イアベルのお父さんからの紹介でイアベルさんと面会をしに来ました。開けてくれませんか。」


「はーい、どうぞー。」


門を押してみると、まさかの鍵はかかっていないみたいでするりと開いた。プールがある庭でふかふかそう椅子にだらりと座って果物を食べながら、本を読んでいる女の人が居た。


「子供が私に何の用?」


「イアベルさんと同期のクリスさんのことについて聞きたくて、来ました。ロージェンです。」


「ロージェン……長いし、呼びづらい。ローって呼ぶね。因みにクリスって誰?」


は?同期の騎士が入って直ぐに死んだのに覚えていない?そんなことがある訳がないだろう。


「あなたと同期で直ぐに死んだ騎士のことです。僕はあなたが彼を殺したのかと考えているのですが、違うんですか?」


かまをかえて、イアベルの様子を観察しようと思ったが彼女は同様する様子もなかった。それにまだ一度も本から顔をあげていない。


「殺す?笑えるねー。そんなことに無駄な労力は割きたくないよー。私はゴロゴロするか、本を読むかで暮らしていて騎士の訓練も行ったことないから、殺すなんてしないよー。だから、クリスなんて人も知らないよー。」


訓練に参加したことがない?そんなんで隊長になれる訳ないだろ。僕は腰に下げていた剣を抜き、イアベルの首に斬りかかった。しかし、彼女は椅子を傾けるだけで避けて僕の剣は宙だけを斬った。


「突然、やめてよー。私はご覧の通り、最強だから訓練なんてしなくていいんだよー。分かったら、面白い話ないなら帰ってねー。ばーい。」


彼女はほんとに殺していなさそうだ。人は一日サボるだけで、剣の腕は落ちる。なのに、訓練をしなくてもあの強さ……化け物だ。僕はイアベルと目を合わせることも無く、家へ帰るしかなかった。


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