第6話

剣教室に通いはじめてから一ヶ月が経った。ガースの友達についてはカスティーリャに聞いてみたが、よく知らないみたいで他に聞くあてもなかったので何も進展してない。剣の腕はガースに手を斬り落とされないくらいには上達しているから、いい感じだろう。


「ロー、練習しよ。」


そして、今日ついにネージュから誘われてしまった。


「うん。」


正直、ネージュに勝てる気はしない。だが、ガースに教わったことがどこまで通用するのかが気になった。


「いくよ。」


僕らは家の庭で剣を持って向き合った。先に僕が動き、単純に胴に向かって速く剣を振る。力の差で剣を弾いて二撃目に入る予定だった。しかし、ネージュは剣で受けることもなく剣の側面で僕を吹き飛ばした。


「うっ。」


息が苦しい。腹が割れそうなほど痛い。


「え、ごめん。こんくらいなら避けれると思って……大丈夫?」


「だ……大丈夫。」


そうは言ったものの暫くは立てそうにない。骨が何本か折れている気がする。前世で殺された時よりも痛い。やっぱり姉は恐ろしい……。


「おいロージェン、休みだからみっちり鍛え……って大丈夫……な訳ねえか。」


「初めまして、ローの姉のネージュです。鬼族の人ですか?魔法で治してくれる嬉しいんですけど。」


「分かった。治癒……」


痛みは消えないが、身体の中が熱くなっていくのを感じる。


「ガース、ありがとう。」


「こんくらいいいよ。で、誰にやられたんだ?」


ガースはこの状況で誰にやられたかがよく分かっていないらしい。


「あ、私です。」


「てめぇかよ。死ね。」


ガースは剣を抜いて、ネージュに刃を向けて、斬りかかる。


「え……ちよっ。」


ネージュはガースの攻撃を剣で吹き飛ばし返し、顔を蹴り飛ばした。


「突然、何するんですか!」


「痛えなあ、何するんですかって、お前がロージェンをいじめたんだろ。」


ガースはかなり勘違いをしているようだった。骨まで折られているのを見られたから仕方ないけど……。


「違います、剣の練習をしていたんですよ。ロー、説明してあげて。」


ガースには中々信じて貰えなかったが、何とか納得はしてもらえた。


「それにしても、お前強いな。ちょっと、相手してくれよ。」


「分かりました。勝ったらちゃんと信じてくださいね。」


「負けねえから、問題ねえよ。」


さっきのことを見ると圧倒的にネージュが強いと感じてしまう。しかし、ガースが油断をしていたからかもしれない。


「身体強化……」


ガースが魔法を使っているのをネージュはぼんやりと眺めている。ガースが、魔法を使うのはヘレナ先生と戦う時以外は見たことがなかった。それほど、ネージュは強いと思われているのだろう。


ガシン


僕の目では、ちゃんと理解できない速さで剣と剣がぶつかり合っている。ガースが一方的に攻めてネージュが防いでいるように見えるが、ガースの方が余裕が無さそうだ。


「チッ、速度強化……」


ガースは戦いながら詠唱してスピードを上げていっている。年齢は二倍も差があるというのに、ネージュが押しているだろう。


「なんだ、こんなもんか。」


ネージュは恐ろしいことを言って、ガースの剣を側面から叩き折り剣を喉元に突き立てた。


「……クソっ降参だ。ロージェン悪いな、今日はもう帰る。」


ガースはとても悔しそうな顔で帰っ行ってしまった。


パチパチパチパチパチ


「ブラボー、先程の戦いは実にエクセレントだったよ。リトルガールには見えない強さだったね。ところで、ユーはファンデル教に興味ある?」


「え……私?」


「そーそー、そこのプリティーガールだよ。」


なんだか、とても胡散臭い感じのおっさんが怪しそうな宗教を勧めている。


「教会騎士のスカウトですか?」


教会の騎士?教会って騎士とかいるっけ?


「イエス、名前だけでも入っといて気になった時に入ってくれればオーケーだよ。」


「分かりました、ではさようなら。」


「シーユー。」


胡散臭いおっさんの引き際は早くて助かった。あういう人はめんどくさいと思っていたんだがな。


「ねえ、ロージェン。私、教会騎士にスカウトされたよ。ね、すごくない?」


「え……あ、うん。」


「名前が知らてない教会だけど、私って教会騎士にスカウトされる実力があるってことだよね。」


ネージュが胡散臭いおっさんにスカウトされてめちゃくちゃ喜んでいるのが、不思議でしょうがなかった。今度、ヘレナ先生に教会騎士について聞いてみるか。

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