第4話


「おりやぁぁぁあ。」


自主練の時間に入り、ルードと戦っているがルードはめっちゃ弱い。力任せな攻撃ばっかりしてきて、僕には全く当たりそうにもない。本物の剣でやってるから当てられても困るけど……。


「あークソ、なんで当たんねえんだよ。」


「いや、当てんなよ?」


僕はさっきの鬼族の男とヘレナ先生のやっていた技の復習しながら、ルードに寸止めの攻撃をしている。


「はあ、はあ、はあ、ロージェン悪い。疲れたから少し休憩しとくぞ。」


「分かった。」


ルードは脳筋タイプなのに体力の限界とか来るんだな。芝の生えた地面に大の字で寝転がっている。こうなったら、違うペアを探すしかないだろう。


「すいません、相手してくれませんか。」


僕は一人で剣を振っていたさっきの鬼族の男に相手をお願いすることにした。一番効率的な練習に必要なレベルの高い環境だ。これはどのジャンルでも決まっている当たり前の事だ。


「俺か?いいぞ。」


意外にもあっさりと承諾してくれた。


「よろしくお願いします。」


「単純に戦うだけでいいか?」


「はい。」


彼は少しめんどくさそうに息を吐いた。僕の力でこの人にどこまで通用するのだろうか?一回くらい攻撃を寸止めしなければ、当たるとこまでいきたい。


「行くぞ。」


彼は一歩目で、僕の目の前にいた。


「え?」


そこから、剣を振り下ろしてきた。思っていたよりも速くて、全く反応出来ない。彼の剣は減速する気配がない。


ガシン


「ねえ、ガース。どういうつもり?」


僕の前にエルフの子が膝立ちでガースと呼ばれた鬼族の男の攻撃を受けている。


「どういうつもりって言われても練習の相手をしてやってるんだよ。」


「あなた、本気で腕を斬り落とそうとしていたじゃん。」


え、腕を……。


「殺さなければ、問題ねえだろ。治癒魔法で傷口くらい塞いでやるよ。」


エルフの女の子の冗談かと思ったが、本気で腕を斬り落としにしていたらしい。治癒魔法で傷口塞ぐんじゃなくて、腕を直して欲しいけどな……。


「なんで、そんなことを。」


「は、ウザイからに決まってるだろ。」


「ガース、ちょっと来なさい。」


ヘレナ先生がガースを連れて行って、一旦落ち着いた。


「はあ、君大丈夫?」


「はい。さっきはありがとうございました。えっと……」


「カスティーリャよ。」


カスティーリャ……?確かカステラの語源だったけ?ジュるり。


「え、ちょ、人の名前を聞いてヨダレたらさないでよ。」


カスティーリャは、ちょっと驚いた目でこっちを見ている。


「いや、僕の好きな食べ物の名前だったから。」


こっちの世界ではお菓子というものを見たことない。デザートはせいぜいフルーツくらいしかない。いつか作って売ってみようかな。


「いや、だとしてもヨダレはやめてよね。」


「これから、カスティーリャを見ただけでヨダレが出るかも。」


「もー、ホントやめてね。」


「いつか、カスティーリャに食べさせてあげたいよ。」


その時はお菓子の名前をカステラじゃなくて、カスティーリャにしよう。


「じゃあ、今から食べさせて。」


意外にもカスティーリャは食いついてきた。しかし、カステラの材料は知ってるけど、作り方は知らないから色々と試さないと作れないし、今すぐはどう考えても無理だろ。


「今すぐ?」


「うん。あなたはその食べ物を想像してね。味とか形とか食感とか匂いとかを鮮明に思い浮かべて。」


「え……うん。」


とりあえず、カスティーリャの言う通りにしてみている。僕は五年も昔の違う世界の食べ物のことを思い浮かべる。カスティーリャは僕の両手を掴んだ。


「創造……」


カスティーリャが詠唱を始めた。地面に綺麗な光の線が描かれて、魔法陣を形成していく。魔法陣が三つになったら、今度はカスティーリャの手の中が光る。光の糸が束となり、僕の想像したカステラは創造していく。


「魔法ってすごい。」


僕が感動しているとカステラが二つ出来上がった。


「魔法見るの初めてだった?」


「うん、魔法って綺麗だね。」


これまで生きて、死んできた中で一番綺麗なものだった。


「ちょっと照れるね。じゃあ、とりあえず食べよ。」


「久々だぁ。全く思い残すことなんてなかった前世のものにここまで感動したのは初めてだ。」


カスティーリャと僕は同時にカステラを口に入れる。


「ん、甘いしふわふわだ。」


かわいい……。口の端に少しカステラが付いている。


「どうしたの?」


見蕩れていたら、不思議そうに顔をのぞき込まれた。


「え……いや、なんでもないよ。」


「そう、あ、あなたの名前何?」


「ロージェンだよ、よろしくね。」


「よろしく、ロージェン。」


ガースに絡まれたことなんて、すっかり忘れてカスティーリャを堪能していた。


「カスティーリャ、また作ってね。」


「うん、ロージェンは普段から食べてるんじゃないの?」


「いや、今はもう食べれないんだ。」


これは違う世界の食べ物なんだから無理だろう。


「そっか、じゃあいつでも言ってね。」


「うん、ありがとう。」


やっぱり、魔法が使えないのが残念だ。


「なあ、ロージェン。自主練の時間過ぎてるから帰ろーぜ。」


さっきまで芝の上で寝ていたルードが起き上がってきた。


「もう、こんな時間か。カスティーリャ、またね。」


「またね、ロージェン。」


笑顔で手を振っているカスティーリャを二度見きてから、ルードと一緒に帰ることにした。


「いやあ、ヘレナ先生のおっパイデカかったな。」


「お前の今日の感想それかよ。」


僕にとってはかなり濃い一日だったから、ついつっこんでしまった。


「明日が楽しみだぜ。」


ルードの理由はとは違うが、僕も明日が楽しみだった。

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