第3話


僕らは剣教室に着いて、ヘレナさんに挨拶をしに行った。剣教室はまだ始まってないようで、まだ人は見えない。


「久しぶりね、えっと……名前は何?」


そういえば、図書館では名乗っていなかったことを思い出した。


「久しぶりです、ヘレナさん。僕はロージェンです。これから、よろしくお願いします。」


「えっと、剣教室に入るってこと?」


ヘレナさんは少し喜んでいるような驚いているような顔をした。どこかでこんな顔を見た事がある気がするが、思い出せない。


「はい、ここのルードも一緒に入りたいんですけど、いいですか?」


「ええ、いいわよ。」


「よ……よろしくお願いします。」


美人なお姉さんを前にして、ルードは声が裏返ってる。


「うん、よろしくね。じゃあ、始まるまでに簡単にここの説明をするわよ。ここでは、色んな種族が来て剣を学んでいるのよ。最高年齢は十四歳で、一番年下はあなた達ね。剣はこちらで貸し出しをしているわ。私が教える時間が半分で、自分達で練習する時間が半分よ。分かった?」


「「はい。」」


素直に聞き入れた僕らを見て、ヘレナさんは満足そうに頷いた。


「じゃあ今から、私が基礎を教えるわ。」


ヘレナさんは剣を取ってきて、一つずつ渡してくれた。剣は鏡のようにきれいに光を反射している。五歳の身体には少し重く感じるが持てないことは無いみたいだ。しかし、五歳が持つと釣竿に見えるくらい長い。


「ロージェンが持ってるのが両手剣で、ルードが持ってるのが片手剣よ。どっちがいいとかある?」


僕の好きなキャラは大抵片手剣だったよな……。


「片手剣(両手剣)がいいです。」


僕らの意見は綺麗に別れて、剣を交換することになった。


「ロージェンは馬鹿だなぁ。こういうのはデッカイのでぶった切った方が楽しいだろ。分かってねえなぁ。」


見た目通り、ルードには脳筋なやり方が合っている。


「まあ、見てればこっちがいいって分かるからな。」


当たり前だが、片手剣は両手剣に比べたらかなり軽い。


「うえ、重っ。」


ルードが重そうに剣を持っているのが見えた。


「ロージェン凄いな、こんなのよく簡単に持ってたな。」


「それは魔力の差よ。元々の力はロージェンよりも獣族のルードの方が何倍もある筈よ。でも、ロージェンの身体能力はかなりの魔力で強化されてるから力が強いのよ。」


人族の僕と獣族のルードが広場で一緒に遊べた理由が分かった気がする。魔力のおかげで僕は身体能力が釣り合っていたのか。


「クソ、負けねえからな。」


「ああ、望むとこだ。」


暫くヘレナさんから剣を習っていたら、他の生徒らしき人がどんどん集まってきた。鬼族にエルフに獣族らしき種族が集まってきている。


「ヘレナ先生、このチビ共は誰ですか?」


一番背の高い鬼族の男がドスのきいた声で尋ねた。敬語を使っているが、言葉使いがかなり乱暴そうである。


「新しい生徒達よ。分からないことが沢山あるだろうから、たくさん教えてあげてね。では、今から始めるわよ。」


「「「「「はーい。」」」」」


最初の三十分はそれぞれの種族にあった技の説明や、有効な戦術、特定の種族の対策法などを説明した。ルードはとても眠そうな目をしながらも、なんとか全部聞いていた。あの感じだと殆ど記憶に残ってないだろうけど……。


「では、今から私相手に打ち込み練習をするわよ。三者までは同時に来てもいいわ。勿論、私は反撃しないから安心してね。」


あの感じだと先生の腕前は相当高そうだ。剣教室に通っているのが、三者集まってもキズ一つおわせれないのだろう。


「ルード、一発かますぞ。」


「いっちょ、やってやるか。」


僕らは強キャラ感を出しながら、ヘレナ先生に攻撃しに行った。


「うおぉぉぉぉぉおお。」


ルードは見えっ見えの大振りでヘレナ先生へと斬りかかりにいった。ルードに作戦は無理そうなので、僕のやることはルードに合わせつつ、ルードを囮に使うことだ。


「はあ、授業をなんも聞いてないじゃないですか。」


ヘレナ先生は完全に油断している。一対二の時、両方が反対側から完璧に同時に攻撃をしたら剣一本では防げない。それが、三秒で考えついた作戦だ。


「ロージェンも考えが浅はかですね。」


呆れたように言いつつ、ヘレナ先生はジャンプしながら後ろ向きに回転して、ルードの後ろに回った。


「「え?」」


減速という言葉を知らなそうなルードは僕に突っ込んで来て、僕らは派手な音をたてて倒れた。


「イテテ。」


ヘレナ先生は反撃はしないけど、ちゃんと倒すんだな……。ルードは未だに額を押さえて蹲っている。


「はい、次。」


ヘレナ先生に挑んでいった者は誰一人として傷を付けれず、倒れている。


「オラァ。」


身長の高い鬼族の男が剣を振った時、ヘレナ先生は初めてまともに剣で受けた。そのまま、ヘレナ先生は剣先を滑らせて相手の重心をずらそうとしたが、鬼族の男は耐えた。


「へ、毎日やってたらいい加減ひっかからねえよ。」


一旦、距離を置いてから斬りかかるように見せかけて足元に潜り足を斬ろうとするが、ヘレナ先生は軽く反対側へ飛んで躱す。


「すごい……。」


鬼族の男を見ていると自然と声が出てしまった。彼は、今日の授業で習った技でお手本通りに次々と仕掛けていっている。まるで、授業の復習をしているかのようである。


ピピピピピ、ピピピピピ


鬼族の男の剣を振る腕が止まる。


「はい、今日はここまでよ、残りは自主練ね。」


「クソ、今日もムリかよ。」


彼は本気で攻撃を当てれる気でいたのだろう。乱暴な言葉に似合わない清流のように綺麗な剣筋をしている。彼の剣はいつかヘレナ先生に届くのだろうか?届きそうで、届かない。そんな予感がした。

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