自殺して転生してみたら……

 ぼくの人生ってなんだったのだろう。


 なんて惨めな人生なのだろうか。


 ぼくはいつもいじめられていた。


 死ねとか気持ち悪いとか


 ネットでも誹謗中傷の荒らしで既読無視は当たり前。


 いつも使いっぱしりで


 一生懸命に働いている父さんがくれたお金は見事に奪い取られしまい、父さんが買ってくれた運動靴も燃やされてしまった。


 そんなぼくは笑うことなんてできるはずがない。だけど、父さんに心配かけたくなくって父さんの前ではいつも笑顔でいた。


 そのためか、父さんはぼくがいじめられていることなんてまったく気づくことはなかったのだ。


 だけど、限界だった。


 これから一生いじめられ続けるのかもしれない。


 そうなれば、きっと父さんに迷惑がかかる。


 ぼくはいないほうがいいんだ。


 ぼくは死んだほうがいいんだ。


 そう思った瞬間、ぼくは学校の屋上へと上がり自ら飛び降りた。


 それからどうなったのだろう。


 死んだのか?


 死んだはずだ。


 そのはずなのに気づいたときには、ぼくは見知らぬ土地で畑を耕していた。なぜこんなことしているのかわからない。


 ただ鍬をもって耕しているのだ。


 しかもものすごく疲れる。


 もうしんどい腰が痛い。


「こらっ! ジェット! 図体でかいくせにすぐにバテるのよ」


 どうやらぼくは死んでジェットという男に転生したようだ。しかも小柄で細身だったぼくとは正反対に大柄で体格のよい男のようだ。


「だってすごく疲れるんだもん。こんなことしたことないよ」


 ぼくは怒鳴り付けたいかにも勝ち気そうな女の子を見上げながらぼやいた。


 すると女の子は鍬をかかえたまま仁王立ちになる。


「なにいってんのよ! いつもやっているじゃないのよ。どうしたの? ていうか、ジェットしゃべり方ちがうわね。もしかして、昨日のあれで性格まで変わっちゃった!?」


 昨日のあれ?


 なんの話だろうかとぼくは頭を傾ける。


「え? 覚えてないの? もしかして、昨日のあれで記憶までなくしたの?」


「だから、あれってなんだよ!?」


「昨日のあれよ。あれ。あんたがダッサドリ捕まえようとして逆にやられちゃったやつよ」


 やられちゃった?


 もしかして、なんとかドリにやられて死んじゃったところにぼくの魂が入ったというやつなのか!?


 なるほど


 そういうわけか。


 ってなにを納得してるんだよ!!


 あり得ないでしょ!


 いわゆる異世界転生ってやつだよね?


 でも、それはゲームやアニメの世界の話じゃん!


 あり得ないはずだよ。


 ありえ……


 でも、これが夢でなく本当のことだったとしたら……


 ぼくは思わず自分のほっぺたをつまんでみた。


 いたっ


 夢じゃない?


 夢じゃないんだ!?


 ぼくは転生したんだ!



「バンザーイ!」


 ぼくは思わず万歳してしまった。


 それに驚いた彼女がどうしたのと怪訝そうにぼくをみている。



 せっかく異世界へ転生したなら、やることはひとつだ。


「よーし、決めた!」


「はい?」


「ぼくは冒険者になる!」


「はっ? どうしたの? 突然? やっぱり変よ。やっぱりキャラ変してる!?」


 そんなことを言っているようだが、ぼくにはどうでもいい話だ。とにかく冒険者になるんだ!


 そして、人生をやり直すんだ。


「ねえ! どうやったら冒険者になれる?」


「そりゃあ、冒険者ギルドに登録すればなれるけど……」


「それってどこにあるんだ!?」


「えっと、たしか王都ステラまで行けば冒険者登録できるはずよ」


「ありがとう! ぼく行ってくるよ!」


「はい?」


 ぼくは彼女が呼び止めるのも聞かずに鍬を投げ捨てると冒険者ギルドのあるという王都へ向かって走り出そうとした。


 けれど、ふいに足を止める。


 って王都ステラってどこだ!?


 そのまえにここはどこなんだ!?


 ぼくは踵を返して彼女のもとへと駆け寄る。


「ねえ。君! ここはどこ!? 王都へはどういけばいいの!?」


「はっ?」


 彼女はぼくの言っていることがわからないらしく、きょとんとしていた。








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