リバース~異世界転生者たちの旅立ち~

野林緑里

殺されて転生してみたら……

 目を覚ますとそこは知らない森のなかに俺はいたのだ。


 いったいいつからここにいるのだろうか。


 ここはどこなのか。


 思考が追い付かない。


 そういえば、俺は学校が終わって家に帰ろうとしたんじゃなかったっけ?


 たしか電車に乗って、いつもの道を通って、いつものように玄関のドアノブに手を伸ばしたんだよな。そこまでは覚えているんだけど、そのあとどうしたんだろう?


 なんだかものすごく痛かった記憶がある。


 突然襲ってきた激痛で意識が朦朧としてきたんだよな。


 なにが起こったのか把握するために必死に顔をあげると、そこには一人の男がいた。


 中年の男で血のついた包丁をにぎりしめたままガタガタと震えていた。


 いったいだれ?


 まったく見覚えのない。


 ただ俺が男の持つ刃物に刺されたことだけはわかった。


 なんで?


 俺がなにをしたってんだよ。


 悪いことなんてなにもしてねえぞ。


 俺はいたって真面目に生きていたはずだ。


 悪さなんてしたことねえぞ。


 それなのになんでおじさんに刺されなきゃならないんだよ!


 そんなことを考えながら俺の意識が遠退いていったことだけは覚えている。


 やがて視界が真っ白になった。


 それからどうしたんだろう?


 うーん。


 思い出せないなあ。


 俺は必死に考えた。


 なぜ、家の前にいたはずの俺が知らない森のなかにいるのか。


 あの男がここに連れてきたとでもいうのか。


 なんのために?


「違うよ」


 そのとき、どこからともなく声が聞こえた。



「だれだ?」


 俺は周りを見回すも人の気配がまったくしない。


 ただ声だけが聞こえるのだ。


「いくら見回してもぼくは見えないよ。だってぼくは直接君の脳に話しかけているんだもん」


「はい?」


「ここにつれてきたのは君を刺したおじさんじゃない。ぼくなんだよ」


「どういうことだ!? つうかだれだよ? 人に物をいうときはまず姿を現して自己紹介するのが礼儀じゃないのか?」


「あーごめん。ごめん」


 そういうとともにその声の主は俺の前に姿を現した。


 ピエロだ。


 サーカスに出てくるピエロが目の前でお辞儀している。


「こんにちわ。ぼくはピエロとでもよんでくれ」


「そのまんまかよ」


「そういわないでおくれ。名前なんて大したものじゃないよ」


「それでなんでお前が俺をここに連れてきたんだ?」


「ただの気まぐれだよ」


 ピエロは満面の笑みを浮かべながらいうものだから、俺はずっこけそうになった。


「気まぐれでここに連れてくるなよ。つうか、ここはどこだ?」


「アウルティア大陸だよ」


「はあ? アウ……」


 なんだよ。それ?


 聞いたことねえぞ。



 俺は頭のなかに世界地図を広げてみる。


 アメリカ大陸、ユーラシア大陸、中国大陸


 いろいろと思い浮かべてみるがアウルティアなんて名前の大陸は思い出せない。


「そうアウルティア大陸にあるレスピア山脈の中央にあるレッドゴッドだよ」


 また聞き覚えのない地名が出てきたぞ!


 いったい何なんだよ!


 ここはどこなんだよ!?


 そこで俺はある可能性にたどり着いた。


「もしかして、ここって……。異世界なのか?」


「ピンポーン。ピンポーン!」




 マジで!?


 いやいや


 まさか


 そんなのゲームや漫画の世界じゃねえかよ。


 いくらそういう類いのものに興味ない俺でもわかるぞ。


 いやいや


 知っているが、実際にある分けねえよな。



 夢か?



 夢なのか?


 そのとき、ピエロが突然俺にデコピンを食らわせた。


「いてっ! なにするんだよ!」


「痛いでしょ。夢じゃないよ。君はいわゆる異世界に転生したんだよ」


「はい?」


「君はもといた世界で死んたんだ。そして、ぼくの気まぐれでこの世界に転生したのさ」


「はあ?」


 そういわれてもはいそうですかと納得いくわけがない。


「でも大丈夫だよ。この世界には転生者も転移者もたーくさんいるから不自由しないはずさ。レスピア山脈の麓の国、アメシスト王国はとくに理解がある。ぼくは転生転移者にはまずそこにいくことを進めているんだ」


「えっと……」


 転移?


 転生?


 聞き覚えのあることばでなんとなく想像はつくのだが、どうも腑に落ちない。


「あっ、でもちゃんと説明しないと理解してもらえないかもね。転移者は体ごとこっちににちゃうけど、転生者は魂だけだからね。それも君は言葉遣いを改めたほうがいいよ」


「え? なんで?」


「だって、ほら」


 ピエロは鏡を俺に向ける。


 その姿をみた俺は一瞬我が目を疑ってしまったのだ。


 そして、俺は視線を下に向けた。


「え?」


 なんか膨らんでねえ?


 いやいやふくらんでいるぞ!


 むっ胸が……


「まっまさか……」


 俺は恐る恐るピエロのほうをみる。


「うん。君は転生したんだよ。女の子にね」


「ええええええええ!」


 俺は絶叫した。


 それゆえか周りの木々が地震でも起きたように揺れ動くと同時にいっせいに鳥たちが飛び出していった。


 空は晴れ渡っている。



 けれど、俺の心は見事に雨雲で埋め尽くされていた。



俺は



死んで


転生したら



どうやら



女の子に


なったらしい





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