第20話 清side玲の我慢

塾の模試で、疲れた頭と身体を引き摺って家に辿り着いて人心地した時、スマホに玲からメッセージが届いた。


『会いたい。』


たったそれだけの文字が液晶に浮かび上がってきて、俺は眉を顰めた。こんなメッセージは初めて受け取った。いつもは全然関係ないコメントが続いた後、いつ会えるかと湾曲に尋ねてくるのが玲のメッセージだからだ。


何かあったのかと、俺はコンビニに行ってくると家を出ながら、返信した。すると直ぐに玲の家の玄関が開いて、玲が姿を現した。



「キヨくん…。」


特に変わった様子は無さそうだったけれど、俺は会えて嬉しかったせいもあって、にっこり笑うと玲に言った。


「今からコンビニ一緒に行こうか?」


すると玲は頷いて、家の中にひと声掛けると玄関から出て来た。髪が濡れていたので、風呂から出たばかりなんだろう。甘い香りの玲を感じながら、俺たちはコンビニまでゆっくり歩き出した。



「どうした?何かあった?」


俺がそう尋ねると、玲は俺をじっと見つめて、暗い夜道でも赤みを感じる唇を開いて囁いた。


「…キヨくんに凄く会いたくなっただけ。」


俺は心臓がドキドキしてきて、何ならムラムラもしてきた。目の前の玲が凄く可愛く見えて、自分のものにしたかった。でもここは公道で、例え男女間だとしてもイチャイチャは憚られる。



そんな俺の状況を置いておいても、やっぱりいつもの玲じゃない気がした。俺が戸惑っているうちに、コンビニに到着してしまった。玲と俺は目についた飲み物を買うと、時間を惜しむように店を出た。


俺は玲の様子も気になったし、どこかでイチャイチャ出来る場所はないかと視線を彷徨わせた。そうは言ってもこの辺りは住宅地で、この時間は案外家路を急ぐ人の往来がある。俺は思い切って玲に言った。


「…うちに寄ってく?」



玲はハッとして俺を見つめたけど、少し迷った顔をした後コクリと頷いた。俺はやっぱり変な様子だなと思って、玲に尋ねた。


「やっぱり、何かあったんだろ?話して。」


それから玲はポツリ、ポツリと後輩に付き合ってくれと告られた事、好きな人がいると断った事、後輩が初めて男を好きになって苦しそうだった事、自分は好きになったのが俺で、たまたま男だったんだともう一度はっきり自覚した事などを話してくれた。



玲が告られた事は、聞いてて焦るばかりだったけれど、玲は俺に言った。


「僕、キヨくんの事一体いつから好きになってたんだろう。何だか僕の中には全然迷いがなかったから不思議な気がして…。そしたら無性にキヨくんに会いたくなっちゃって。これは僕の我儘なんだけど。今日会えて嬉しかった。」


そう言って、恥ずかしそうに笑ったんだ。ああ、もう絶対部屋に引き摺り込んでチュウするから。





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