第10話 気の置けない仲間

「はい、休憩ー。20分したら今やった所の小テストするからね。ちょっと頭休めて。」


そう塾長に言われて、僕たち六人の高三グループは長机に突っ伏した。松陰高校から二人、地域のトップ公立高、高見高校から四人で構成されてるグループAの英語クラスは、容赦ない塾長の読解指導にヘロヘロだった。


「マジキツくない?ここの塾ってスパルタ塾なんじゃない?アットホームとか嘘だろ。」



そう言って机に頬をつけてボヤいているのはグループのムードメーカーの木崎君だ。僕は高見高校でも多分陽キャ層だと思われる木崎君が、どうして大手塾へ行かなかったのか不思議に思っていた。僕は思わず尋ねた。


「木崎君って、どうしてこの塾にしたの?僕と違って、大手塾でもやっていけそうなのに。」


すると木崎君は、ちょっと目を見開いて僕を見つめて、にっこり笑って言った。



「お?橘に個人情報聞かれたの初めてかも。何か嬉しいな。お前、全然連れないっていうか、俺に興味なかったじゃん。ハハ。橘の言う通り、確かに大手塾は友達も多いけど、あのノリだと落ち着いて勉強出来ないっていうか。ま、それが理由かな?ここ評判良かったし。」


すると隣の高見高校の山田さんが頷いて言った。


「わかる。あんまり同じ高校の生徒が多いと、学校の延長みたいで落ち着かないんだよね。私もスイッチ入れ替えたかったからここにしたんだ。口コミ良かったから。そう言う橘君もやっぱり口コミ?」



僕は、サバサバしていて、いつもお姉さんぽい山田さんに微笑んで答えた。


「うん。僕は従兄弟のオススメで。大手塾じゃ、心配だからって。」


そう答えると、何だか皆が僕を見てうんうん頷いていた。え?すると松陰高校の吉川君が、急に目を光らせてみんなに言った。


「な、これ見てよ!レアものだぜ?」


そう言って僕には見せない様に、皆にスマホを見せた。僕は嫌な予感がしたけれど、僕とスマホを見比べる皆の視線にすっかり諦めた。ああ、文化祭のアレだよね。



可愛い!とか嘘だろとか、まぁ色々な反応だったけど、僕をオカズに皆はすっかりリフレッシュしたみたいだった。しまいには大塚先生まで、何だなんだと覗きに来た。


吉川君からスマホを受け取ると、一瞬絶句して何か呟いていたけど、割とマジトーンで、吉川君に画像データをくれる様に頼んでいた。いや、マジやめて。



「橘君て、小動物系だなぁって思ってたけど、もうそれ超えてた!雰囲気変わったの髪を切っただけじゃないかもね。そっか、優勝したんだ。もう一人も凄い美人だもん。女子の私の立場は~!」


そう言って弾ける様に笑う山田さんは、スラッとしたカッコいい女子なので、僕は思わず言った。


「僕、山田さんは男装したら、ぶっちぎりで男装コンテストで優勝できると思うよ。」



するとグループの皆も、山田さんなんて涙を流しながら爆笑していて、僕は何かやらかしてしまった感に、居た堪れなかった。そんな僕に、山田さんが抱きついて言った。


「橘君、マジかわゆす!癒されるわ~!」


あ、やっぱり僕って、ここでペット系だったのかな?そうじゃないかなって思ってたけど。ま、いいけど。





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