第一〇二編 「報われない」
★
「準備はいい、
「う、うん……」
呼び掛けに応じたその少女は、緊張の
その様子を隣で静かに見つめるのは茶髪の女子高校生・
そう、今から行われようとしているのは少女――
「そんな緊張しなくても大丈夫でしょ。
「で、でもでも、
「まったく……」
相変わらず恋愛が絡むと途端に尻込みしてしまう幼馴染みに、やよいはため息を吐き出す。
「だったら、やっぱりさっきのチョコを久世くんにも渡したら?」
「だ、ダメだよ。だって
「(……
桃華には気付かれない程度に左目を
「――やっぱり、本気なんだね」
「? う、うん。やっぱり、久世くんには喜んでもらいたいから……」
頬を赤くした桃華がそう答えたが、やよいが言葉を向けた相手は彼女ではない。これまで何度も桃華の恋を陰から
「(
やよいが気付いていることを悠真は知らない。彼の協力者たる令嬢・
「(たとえば今回の件だって、
単にそこまでやよいを信用しきれなかっただけ、という考え方も出来るが、それでも秘密がバレたことを知ったなら、その時点で「桃華には言わないでくれ」と口止めくらいしてくるだろう。でなければ、あれほど暗躍に徹してきた意味がなくなる。
「(……でも、なんで
それも疑問点のひとつだった。
悠真が桃華の恋愛に手を貸す理由の一端は、彼が桃華に対して異性としての好意を
しかし、だからこその疑問。
桃華の恋を叶えようとしている時点で、悠真は桃華の恋人になることを諦めたのだと推定できる。ならばせめて友人として・幼馴染みとして彼女に手を貸し、友愛・親愛を勝ち取るのが次善ではないだろうか。
彼の暗躍が桃華にバレていないということは、仮にこのまま桃華の初恋が成就したとしても、悠真が彼女から感謝されることはない。好感度が上がることもない。
「(もし
その場合、桃華のなかで悠真への好感度や信頼は増していくはず。そして少し生々しい話をするなら、万が一桃華が
あの少年にそこまでの計算が出来るかどうかは別として、「今すぐは無理でも、いつか振り向いてほしいから」という理由で桃華の恋を応援しているというなら、彼の行動にも一応の説明はつく。
だが、現実の彼が行っているのは〝暗躍〟だ。桃華どころか、やよいにも気付かれないように陰から
「うええ、やよいちゃーん、これどうやって切ったらいいと思うー? ……やよいちゃん?」
「…………」
包丁を片手に四苦八苦する幼馴染みの姿に、やよいは真顔のまま思考する。
悠真が桃華に手を貸すことに、理由などないのかもしれない。
目的も利益も、なにもないのかもしれない。
ただ、桃華のことが好きだから――大切だから、幸せになってほしいだけなのかもしれない。
幼馴染みの笑顔を、守りたいだけなのかもしれない。
その気持ちは理解できる。だって、やよいもそうだから。
「……
「?」
愚者の少年に向けた呟きをこぼした親友に、なにも知らない少女は小さく首を傾けるだけだった。
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