第二章
幕間⑤ 一途
〝
傘下の子会社数は実に三〇〇以上、総従業員数は一〇〇万人超。前代表の時代に本拠を
そんな現状に対し、七海グループ現代表・七海
『いいかい、
短期留学のついでに顔を見せに行った
でもパパの言うとおり、社長になんてなるものではないと思う。
もちろん地位や名誉、財力や権力を欲する人が多いことは理解している。しかしその代償に自由や時間を制限され、「責任」という名の重荷を背負うことになることを忘れてはならない。
そう、大きな力には必ず代償が存在する。それがたとえ、生まれ持ってしまった力だとしても。
であるならば、頭脳、身体能力、家柄、美貌――この世に生を
それでも、私は信じている。いつかまた、お姉ちゃんが昔のように笑える日が訪れることを。
だって私のヒーローが、そう約束してくれたんだから。
★
「お待ちしておりました、美紗お嬢様」
「ただいま、
新年、一月一日。短期留学を終えて空港に降り立った私を出迎えてくれたのは、スーツ姿の長身従者・本郷
「長旅でお疲れでしょう。お車の用意が出来ておりますので、どうぞこちらへ」
「ありがと。本当に疲れたわ、短期でも留学なんてするものじゃないね。しかもパパのとこに顔出しちゃったせいで、帰ってくるのが三日も遅れちゃったし」
「そう
「普段からしょっちゅうビデオ通話してるじゃない。というかさっきもママから掛かってきたよ、『早くも「未来と美紗に会いたい」って
「
話しているうちに
「あれ? お、お姉ちゃんっ!?」
「――おかえりなさい、美紗」
無人だと思っていた車内に腰掛けて本を読んでいたのは、私の実姉・七海
「珍しいね、お姉ちゃんがわざわざ迎えに来てくれるなんて。どうしたの?」
「大した理由じゃないわ。
「あー、そっか。
私が留学に行っている
ちなみにうちのおばあちゃんは七海グループの相談役。本人は「とっくに隠居した身」と言っているがその人望は極めて厚く、毎年この季節になるとグループの
もっとも、厳密に言えば彼らが通されるのは
彼女の〝
「――そういえば美紗。服部はどうしたの?」
「えっ? ああ、あの子なら帰国とか
「迷惑な話ね」
「ママの知り合いのデザイナーさんが作ってくれたドレスとかアクセサリーもいっぱいあるんだって。半分はお姉ちゃん用らしいんだけど……要る?」
「要らないわ。どうせ
「言うと思った。まあ服部なら勝手にやってくれてると思うけどね。あ、そうだ。服部といえば、
「?」
走り出したリムジンの車内、私はずいっとお姉ちゃんのほうへ身を乗り出す。
「
「……ええ、そうね」
「やっぱり本当なんだ!? キャーッ、素敵っ! エプロン姿の真太郎さん、絶対に見に行かなくっちゃ!」
「相変わらず
無表情ながらも呆れた様子のお姉ちゃんに、私は「もちろんっ!」と即答する。
格好良くて優しい彼に、私は幼い頃からずっと想いを寄せ続けている。
「(それに……真太郎さんは、約束してくれたもの)」
『心配しないで、美紗。僕はいつか必ず、
いつからか笑わなくなってしまったお姉ちゃんを救い出すと言ってくれた、私のヒーロー。
彼がそういう人だから、私もずっと一途に――
「(あれ? 『貴女も』って……?)」
ふと引っ掛かり、私の話には興味なさげに読書を続けている姉を見やる。
まるで、私の他にもそういう人を知っているかのような口振りだった。
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