第七九編 個性的
桃華のプレゼントは片手サイズの小さな箱。中身も知らないのに妙に手に馴染むのは言うまでもなく、昨夜の救出劇があったからだろう。
一方、久世のプレゼントは桃華のものよりもさらに小さく、そして軽い。細長い長方形の見た目から察するに、中身は文房具や
「ねえねえ
「気に入ってもらえると嬉しいんだけれどね」
俺の
「……じゃあ、まず久世のほうから」
そう言って俺は包装紙を
そしてセンス良さげなデザインの箱をそっと
「ティースプーン、だな」
「うん、そうだよ」
どこか自慢げに、久世が頷いた。
「実はそれ、結構有名なお店のものなんだよ。小さいけど丈夫だし、使い心地も良くて評判らしくてね」
「へえ」
「
「なるほど」
「僕たちは三人とも喫茶店で働いているし、ぴったりだと思って」
「そうだな、サンキュ。んじゃ次、桃華のプレゼント」
「リアクションが薄くないかい!?」
さっさと次へ行ってしまう俺に「びっくりだよ僕!」と嘆く久世。そんなことを言われても、予想通りのものを予想通りに贈られてしまったのだから仕方ないだろう。恨むなら己の捻りのなさを恨め、久世
しかしながらこのイケメン野郎が選んだだけあって、なかなか
「悠真ゆうまっ! 私のプレゼントも三人でお揃いなんだよ!」
「へえ、そうなのか?」
表面上はそう言いつつ、「やっぱりな」と内心で呟く。こちらもやはり予想通りだ。そしてそれはつまり、久世は既にこの箱の中身を知っているということになるのだが……。
「あー……
引きつったような半笑いとどこか遠い目をして久世が言う。え、なにその反応? 「個性的」ってどういうことだ?
「(まあ
久世の時よりもさらに丁寧に、
そして俺が内箱の
『小 野 悠 真』
…………。
…………マグカップだ。
『小 野 悠 真』
…………。
…………取っ手の背に、デカデカと俺の名前が入っている。
『小 野 悠 真』
…………。
…………ナニコレ。
「……ちなみに、僕のはコレだったよ」
固まる俺に、久世がおもむろに自分の鞄からマグカップを取り出す。
『久 世 真 太 郎』
…………。
…………やはり、取っ手の背にデカデカと彼の名前が入っている。
「私のはね〜、これっ!」
黙り込む俺に、今度は桃華が得意げに自分のカップを見せつける。
『桐 山 桃 華』
…………。
…………やはり同じだ。そして、無駄に
「……ナニコレ」
「……僕にも、よく分からなかったよ」
「…………」
「…………」
「……なあ久世、コレ、端的に言ってダサ――」
「『個性的』だよ、小野くん」
「……そっかあ、『個性的』かあ」
「そうだよ、『個性的』だよ」
「…………」
「…………」
謎マグカップに視線を釘付けにされたまま言葉を交わす俺と久世。なんだろう、カップ本体は無地なのに取っ手に名前だけ、それも漢字のフルネームで入っているのが最高にダサ――
「『個性的』だよ、小野くん」
「……そっかあ、『個性的』かあ」
「ねっ、ねっ、すっごく可愛いでしょ! ひと目で誰のものか分かるし、世界に一つだけしかないオリジナルマグなんだよ!」
「……そっかあ、
うん、ある意味凄い。コレを『可愛い』と表現するウチの幼馴染みの感性も、コレを注文通りに制作したオリジナルマグ会社も、コレを「クソダサい」ではなく「個性的」と表現出来るイケメン野郎も、全部凄い。俺は昨日、コレを守るために死にかけたんだな……なんだろう、一周まわってとても誇らしい。そして
そして「このマグカップも〝
「(メッセージ通知……? 誰だ、コレ?)」
なにやら未登録の相手からメッセージが届き、
『???:七海です。貴方の携帯電話を回収した際に私の番号を入れておいたから、このメッセージアカウントとあわせて登録しておきなさい』
「!」
その文言に確認してみると、俺の手元に携帯電話がなかった時間帯に一件の着信履歴が入っていた。通話時間はたった一秒、
「(そういや、まだ番号交換してなかったっけか)」
俺は連絡
「(でも今後、協力してもらう上で必要になるかもしれないもんな。登録しておくだけ損はないか)」
むしろこの機会を
「(あ、そうだ)」
ふと思いつき、メッセージを送り返す手を止めて顔を上げる。
「なあ桃華、久世」
振り向いた二人に、俺は――
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