第七八編 三人の聖夜
「で、いったいなにしに来たんだよ、お前ら?」
自分のベッドで
「なにって、もちろんお見舞いだよ。
「うん。それに
「うっ……」
俺と違って性格の良い二人からそう言われ、再び胸に訪れる罪悪感。「いや〜、実は昨日、真冬の川にダイブしてさ〜」なんて言ったらどんな反応をされるだろう。流石に冗談として受け取られるかな、バリバリの事実だけど。
「お、
「えっ? あっ、ホントだ!? 悠真からメッセージ通知来てる!」
「本当だ、僕も気が付かなかった……
「(マジで心配し過ぎだろ)」
なんなんだよ、なんで「クリスマスで忙しいときに休みやがって、さてはズル休みだな」みたいな思考にならないんだよ。いや、風邪を引いたのは本当なのでズル休みだと思われるのも嫌だが、ここまで本気で心配されてしまうと申し訳なくなってしまう。
「でも、すごい病気とかじゃなくてよかった〜」
「そうだね。小野くんが元気なことを確認出来ただけでも来た甲斐があったよ」
「(コイツら……)」
ぽわぽわ笑う桃華とイケメンなことを言う久世に、俺は思わず苦笑を浮かべる。まったく、本当にイイヤツらだ。
そしてそれ以上に感じるのが、二人の
「(……それだけでも、頑張った甲斐があったな)」
屈託なく笑う幼馴染みの姿に、俺は口元を緩めたまま瞳を伏せる。
桃華がクリスマスデートを楽しめてよかった。
彼女の恋が一歩でも前進したならよかった。
やはり、俺の選択は間違っていなかった。
俺はそこに居なくて正解だった。
これで彼らの記憶には、綺麗な思い出だけを残せるから。
「…………」
ズキ、と痛む。だが、それを「苦しい」と表現するのは間違っているだろう。だって、俺は自分で自分を
だから、こんなことを望むのはワガママなことだと分かっているけれど……少し、本当に少しだけ、思う。
「(コイツらと一緒にクリスマスを過ごしていたら――俺もこんな
もしも俺がなにもせず、なにも知らず、単なる幼馴染みとして、あるいは同僚として、本来の予定通りに彼らとクリスマスに食事が出来ていたら。中央公園のイルミネーションを眺められていたら。俺は彼らにとって、〝存在しない記憶〟にならずに済んでいたんだろうか。
無論、仮定の話だ。自分の在り方を後悔しているわけじゃない。でも、こんなイイヤツらと真正面から向き合えない
「(せめて写真の一枚くらい、撮っとけばよかったな……)」
「それじゃあ――はいっ、悠真!」
「…………。…………へ?」
唐突に桃華からなにかを差し出され、俺は一瞬遅れて反応を示した。そしてニコニコと笑顔を浮かべる彼女の顔と、その両手の上に乗せられたモノを交互に見比べる。
「えっ……こ、これって」
困惑する。なぜならそれは、なんだかとても見覚えのある形をした小さな箱だったから。
そう、昨日俺が死にそうになりながら川から見つけ出した、例のプレゼントボックス。まさしくアレと同形の小箱だ。相違点を挙げるとすれば、目の前の小箱は青色ではなく、赤色の紙に包まれているということ。
「本当は悠真にも昨日渡すつもりだったんだけど……受け取ってくれる?」
「…………!」
驚きのあまり声も出せないまま、震える手で赤色のそれを受け取る。そして俺がなにか言うよりも先に、今度は久世が「それじゃあ、僕も」と
「メリークリスマス、小野くん」
プレゼントを俺に手渡しながら、イケメン野郎が微笑む。
「メリークリスマス、悠真っ!」
昔となにも変わらない明るさで、幼馴染みの少女が笑う。
「(――……そうか)」
俺は、コイツらとクリスマスを過ごすつもりはなかった。
擬似的に桃華と久世のクリスマスデートを実現するためには、そこから
でも――コイツらにとっては、そうじゃない。
桃華も久世も、本気で俺とクリスマスを過ごすつもりでいてくれた。
〝
こうして、プレゼントまで用意して。
「…………」
「……えっ」
「ゆ、悠真?」
黙ったまま俯いてしまった俺に、二人が戸惑いの声を上げる。
「えっ、えっ? な、泣いてるの、悠真っ?」
「…………泣いてねえ」
「泣くほど感動したのかい、小野くん?」
「うるせえッ、泣いてねえよッ!」
顔を覗き込んでくる桃華と久世から思いっきり顔を
「あははっ、どうしちゃったの悠真? 私たちからのプレゼント、そんなに嬉しかった? ねえねえ、嬉しかったの?」
「だからうるせえ!?
「小野くんに泣くほど喜んでもらえるなんて、僕も嬉しいよばふあぁっ!?」
「泣 い て ね え ッ ! !」
肩越しに人差し指を伸ばしてくる桃華の手を払い、一人で勝手に納得して頷く久世の顔面に枕を投げつける。それでもニヤニヤ笑いを止めようとしない彼らに、腕で目元を
「上等だ、お前ら二人ともそこに正座しやがれッ! 先輩として説教してやるッ! 人の気も知らずに呑気にヘラヘラしやがってッ!?」
「わっ、悠真が怒った!?」
「お、落ち着いて小野くん、暴れたら熱が上がってしまうかもしれない!? 泣いてしまって恥ずかしいのは分かるけどぼふぁあっ!?」
「久世くーんっ!?」
危険を察知したらしい桃華が部屋の隅まで避難するなか、俺は右手で掴んだ枕を振り回してイケメン野郎をぶっ飛ばす。……本当に、
床に倒れた久世を枕で殴りまくる俺と、そんな発狂した幼馴染みを
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