第七一編 思い出の高台
中央公園のイルミネーション、その一番の見所といえば、やはり噴水広場の巨大クリスマスツリーだろう。高さ一三メートル超、色とりどりの光で飾りつけられた
そんなクリスマスツリーを中心に、約一五〇万個の電球が使用されたイルミネーションは今年も大盛況だ。特に
「う、うひゃあ〜……ホントにすごい人だね」
「うん。やっぱりみんな、あのクリスマスツリーを
中央公園の外周にあたる道を連れ立って歩きながら、
「ここからでもすっごく綺麗に見えるけど……流石にあそこに飛び込んでいくのはちょっと勇気が要るかも……」
「あはは、そうだね。
実際、公園内の歩道は混雑を避けるため一方通行となっており、すべて回ろうとすると軽く一時間は掛かってしまうだろう。時刻は
そういう事情も手伝って、二人は公園の中ではなく外から夜景を見渡せる
「でも
「ううん、それは大丈夫だと思うよ。公園からは少し距離があるし、結構複雑な
真太郎の言葉通り、彼が目指す夜景スポットは入り組んだ小道の先にあった。古い鉄柵が
「わあっ……!」
そこから見える景色に、桃華は緊張していたことも忘れて声を上げる。小高い丘の上から街並みを見下ろせるこの場所には、真太郎がおすすめするだけあって素晴らしい夜景が広がっていた。
「すっごく綺麗……! 周りに光があんまりないから、街の
「こんなに暗いところだったかな……僕も何年も前に見つけたきり来ていなかったから、記憶が少し
「ここ、久世くんが小さいときに見つけたの? すごいね!」
感動的な景観を前にしてテンションが上がっている桃華が掛け値のない称賛を贈る。しかし真太郎は苦笑にも見える表情で「……ううん」と首を横に振った。
「見つけたのは僕じゃないよ。この場所は彼女が……」
「……?」
それでもなにか言わなければと唇を動かそうとしたその時、不意に少女は自分たち以外の
「……ねえ、久世くん。あの階段の上って……」
「えっ? ああ、そういえば……あの高台からのほうが、もっと綺麗な夜景が見られたような気がする。行ってみようか」
女性の背中が遠ざかっていくのを見送った桃華が
「うわあっ……! ホントだ、こっちからの景色もすごいね!」
「うん。
高台の上からは美しい光で飾られた巨大クリスマスツリーと噴水広場のイルミネーションが一望出来た。目の前で見ればきっと大迫力であっただろう
「すごいなあ……
「…………」
「久世くん?」
「! ご、ごめん、桐山さん。少しボーッとしてて……」
真太郎はなにやら、先ほどから様子がおかしかった。心ここにあらずというか、思い出の夜景を前にして一人で考えに
「……ねえ、久世くん。ここは久世くんが昔、『皆で夜景を眺めた場所』なんだよね?」
「? うん、そうだよ」
「その時は誰と一緒に来たの? 昔のお友だち?」
「それは……」
桃華の問いかけに彼は一度顔を
「『昔の友だち』と言われれば、その通りなのかもしれない。あの頃はいつも一緒に遊んでいたのに、今はもう皆で集まることも出来なくなってしまったから」
そこに遠い過去の記憶を重ねているのか、聖夜の大樹を見つめる少年。
そして彼は、長い時間を
「――ここは昔、
「!」
驚く桃華に、真太郎が複雑な微笑を返す。
「大切な思い出だよ――少なくとも僕にとっては」
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