幕間① 「未変」
★★★
「本日もお疲れ様でございました、お嬢様」
「そういう仰々しい真似はしないでといつも言っているでしょう、
ある日の放課後。正門前に停められた高級車の隣に立ち、粛々と敬礼する女性。そんな従者の姿に、少女・
放課の鐘が鳴り響いたわずか数分後、学校の敷地から出てくる主人を待ち構えていた長身の女性・本郷
「しかし、お嬢様への深い忠誠心を表すと同時に『礼をしない』とは、いったいどのようにすれば……!? くっ、己の
「するわけがないでしょう」
無駄に高い忠誠心とともに差し出された
「もういいわ。はやく車を出して頂戴」
「かしこまりました、お嬢様」
「…………」
しかし、少女は表紙をめくろうとしていた手を
「おや? お嬢様、それは……お手紙でしょうか?」
運転中にも関わらず、
「…………」
そのほとんどは少女へ
とある少年が言っていた通り、自分への想いが
「――本郷。あとでこの紙屑を捨てておいてもらえるかしら」
「宜しいのですか?
「いいのよ。読む前から分かっていたけれど、時間の無駄にしかならない
言葉通り、少女は手紙への関心などすっかり
『少しでもいいから、お前のことを好きになった連中の気持ちを考えてやってほしい』
『やっぱり怖いもんだろ。人にす、好きって伝えるのは』
『お前には「偽物」に見えても、本人にとっては「本物」の気持ちだと思うから』
『頑張って気持ちを伝えようとしたんだ! 手紙を読んでやるくらいのことはしてやってもいいじゃねえか!』
「……
ひとり呟く。それは〝どこかの誰か〟の手紙のため、恋のために、何度も
「勇気」だの「本物」だの、第三者の立場から真剣な言葉を投げ掛けてきた愚かな彼に呆れながらも、少女はほんの少しだけ考えさせられてしまった。
『――頼む』
あの本気の懇願がなければ、今日も彼女は手紙を学校のごみ箱に放り捨てて帰ってきたことだろう。目を通すどころか、
「…………」
しかし、それだけだ。少女はなにも変わらない。
度胸ある少年の言葉にわずかばかり影響されたものの、依然として彼女にとって
恋愛など、
『――本当にごめんなさい、お嬢さま……! わたし、なにも知らなかったんです……! わたしなんかが、あの
――あの
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