第一二編 静寂の廊下
俺が
大切な幼馴染みの初恋だ。そのせいで俺自身が失恋することになったとはいえ、叶えてやりたいという気持ちも嘘ではない。
だから俺はこの一週間、脳みそをフル回転させて作戦を
そして、俺はとうとう考え至ったのだ。
「(恋愛って、どうやったら上手くいくんだろう……)」
――
考えてみれば、俺は自分の初恋でさえなにも出来ないまま終わってしまった男なのだ。他人同士の恋を叶える、などという高等技術が備わっているはずもない。
「くあぁ……クソ、俺がもっと頭良けりゃなあ」
熱意だけではどうにもならない問題に、
「あっ、おはよう、
「!」
後ろから掛けられた明るい声にビクッと全身を
「お、おはヨう、桃華」
平静を
それにしても、このところ桃華と話す機会が多いように感じる。少し前までは週に一回話せたらラッキー、くらいだったのに、最近はほぼ毎日会話しているのではなかろうか。
既に失恋した後だとはいえ、こうして話せるのは俺的にはやはり嬉し――
「
「ぴゃあっ!? く、くくく
「あっ、
「おっ、おおお、おはようございマスぅぅぅぅぅッ!?」
呼んでもいないのに廊下に現れたイケメン野郎の顔を見たとたん、顔を真っ赤にして廊下を走り去っていく桃華。…………。
「どうしたんだろう? 凄い勢いで行っちゃったけど、まだ始業のチャイムまで時間はあるのにゲフッ!?」
「おはよう、久世クン」
「ど、どうして朝の挨拶と一緒に僕の脇腹へ
「桃華が廊下を走った
「その罰が僕に
嬉しい時間を強制終了させられた苛立ちをイケメン野郎の横っ腹にぶつけたところで、俺は内心でため息をこぼした。彼女があの調子であるがゆえ、作戦らしい作戦が立てられない部分もあるのだ。どうにか久世と巡り会わせたところで、「ぴゃあっ!?」の断末魔とともに逃げ去っていく
「(それにしてもこの野郎、あんだけ分かりやすい桃華の気持ちにもまったく気付いてないっぽいな……)」
鈍感だとは思っていたが、ここまでくると馬鹿の域だ。人から好かれすぎるあまり、その辺の感覚が
意識してみると、遠巻きにこちらを――正確には登校してきた久世の姿を見つめている女子生徒があちらこちらにいる。「邪魔な
「ど、どうしたんだい、小野くん? なんだかすごく邪悪な顔をしているけれど」
「フン、邪悪? 邪魔? 上等だ。俺だって幸せな
「いや全然意味が分からないよ!? なんで朝も早くから闇堕ちしているんだい!? 今日の小野くん、いつも以上におかしいよ!」
「『小野くんはデフォルトでおかしい』みたいな言い方やめろ」
騒がしい朝の廊下で俺と久世が言い合っていた、その時だった。
「――――」
――突然、廊下から音が消えた。
いや、消えたのは声か。「おはよう」の挨拶も、同級生とのくだらない雑談も。一年生フロアの廊下に響いていたありとあらゆる声が、その瞬間を
一体何事かと周りを見回すと、生徒たちはまるで
学園指定の制服姿に、同じく学園指定の上履き、学園指定の学生鞄。高校生として何一つ逸脱したところのない彼女は、しかしこの場において明らかに異端だった。
「――綺麗」
先ほどまで久世に夢中だった女子生徒から呟きが落ちる。そしてそれは奇しくも、俺が今抱いていた感情と完全に一致していた。
――俺は人生で初めて〝桃華よりも可愛い女〟を見た。
透き通るように白い肌。
どこか
そして
比喩ではなく、〝人形のよう〟という表現がピタリと当てはまる。
「(な、なんだありゃ……本当に人間かよ……!?)」
ごくり、と思わず
それほどまでに、その少女は現実離れした美しさを備えていた。
「お……おはよう、
「!?」
人形の少女に声を掛けたイケメン野郎に
どこか緊張した
「――――」
ほんのわずかな冷たい
結局謎の美少女は「おはよう」と返すこともせぬまま歩き去ってしまい、彼女の姿がどこかの教室へ消えてからようやく、俺は「ぶはあっ!」と息を吐き出した。どうやら知らぬ
「び、ビビった……誰だ、あの子。あんな美人、うちの学年にいたか?」
「……うん」
俺が問うと、どこか悲しげな表情をしたイケメン野郎がひとつ頷く。
「彼女の名前は
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