第一章
第一〇編 聞き込み調査①
「……とはいっても、具体的にどうしたもんかなあ」
日曜日、バイト先である喫茶店〝
俺は座っている椅子の前脚を浮かせてグラグラ遊びながら、両腕を頭の後ろで組んで考えに
考えるのはもちろん、一昨日の夕方に決意した〝あのこと〟についてだ。
「(
店長が
というのも、桃華と演劇を
だがその先で見たものは、アイドルの出待ちをするファンよろしく第二体育館の舞台袖を占拠する女子生徒の大群。その凄まじい人口密度と熱気に圧倒されてしまった俺は、同じく尻込みしている様子だった桃華を
「(あれだけの人気者とどうこうなろうって、めちゃくちゃ難易度
コーヒーのカップに手を伸ばしながら、どうしたものかと考える。そして立ち
本当に、なんでよりによって
「あー、なんか腹立ってきた。そうだ、せっかくだし今日は久世にパワハラして
「い、いきなりなに怖いことを言っているんだい、
「ん? あっ……やあ久世クン、おはよう! 今日も元気そうでなによりだ☆」
「いや無理だよ? そんなとってつけたように爽やかキャラを演じられても、さっきの不穏な一人言を聞かなかったことには出来ないよ?」
そうツッコミを入れてくるのは、今まさに出勤してきたばかりの久世真太郎だった。本人に聞かれるとは思っていなかったので
「……久世。お前、
「えっ、まさかこの流れでこっちが悪者にされるの!? ビックリだよ僕!」
「というか、事務所に入ってきたらまず最初に『おはようございます!』って元気良く挨拶だろ。まったく、これだから最近の若いモンは礼儀を知らなくて困る。こんな基礎的なところから教育しなきゃならないもんかね? ん?」
「もしかして現在進行形でパワハラされてる!?」
「
「しかも正論を
こほん、とひとつ咳払いをした久世は素直に入口のほうまで後退すると、今度は爽やかかつ元気の良い声で言った。
「おはようございますっ! 今日も一日、よろしくお願いしますっ!」
「うるせえな、ヒトの休憩中にデカい声で入ってくるんじゃねえ」
「いやうん、分かってたけどね、こういうオチなんだろうなってことは!?」
「なんだったのさ、この時間」と嘆きつつ、自分のロッカーへ向かうイケメン野郎。ちなみに
「あ、そういえば小野くん。この間は僕たちの劇を観に来てくれてどうもありがとう。楽しんでもらえたかな?」
「……ああ、まあな」
楽しむどころか失恋した、とは流石に言わない。言えるはずもない。
苦い気持ちを噛み殺し、俺は続けた。
「お前こそ楽しかったんじゃないか? 主役で目立って、あんだけたくさんの女の子からキャーキャー言ってもらえるんだからよ」
「あー……そうだね。あまり
頬をぽりぽりと掻きつつ、久世が困ったように笑う。へえ、まるで平気そうに見えていたが、意外と人並みなことを言うんだな。
「(そういえば確認してなかったけど……彼女とかいねえのかな、
あれだけ女の子にモテモテなんだから、告白のひとつやふたつくらいされることもあるはずだ。であれば当然、既に彼女持ちという可能性だって十分考えられるが……。
「え? 恋人かい? ううん、僕にはいないけど……」
久世の答えを聞いてほっとする。いくら桃華の恋を応援するといっても、略奪愛をさせるわけにはいくまい。
「でも、どうしてそんなことを聞くんだい?」
「ん? ああいや……ホラ、アレだよ。お前くらいモテるなら女の子なんか
間に合わせ的に適当なことを言う俺。この流れで「いや、実はうちの幼馴染みが
「……恋人、か」
久世が呟く。
「たとえどれだけ多くの人に
「?」
俺には聞き取れない声量で何事かを口にしたイケメン野郎は、どこか真剣な
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます