第153話 【温泉村へ・2】


 温泉村に着くと、嗅いだ事の無い変な臭いが漂っていた。


「アルフはこの臭いは平気みたいだな」


「一瞬、変な臭いだなとは思いましたが、そこまで嫌悪するほどではありませんでした」


「それなら、アルフは温泉も気に入ると思うぞ。俺も臭いを克服してから、好きになったからな」


 その後、今日宿泊する宿に向かった。

 その宿は勿論ルクリア商会の繋がりのある宿で、建物に入るとその宿で働いてる人達が俺達が来るのを待っていた。

 初めてこの宿に来たのは俺だけだったので、案内は後で師匠にしてもらう事になり、まずはそれぞれの泊まる部屋に向かった。

 この温泉村は山にある為、部屋からの景色はかなり良かった。


「王都とは全く違う景色ですね。これはこれで凄く好きです」


「自然豊かな場所だからな、温泉も景色を堪能できる場所だから、つい長風呂になるかも知れないから注意するんだぞ」


「はい。分かりました」


 部屋を確認した後、師匠に宿の中を案内して貰い、少しして夕食の時間となった。

 食事には山菜が使われた料理が多く出されていて、この地ならではの食材で凄く美味しかった。

 そして食事を終えた後は、楽しみにしていた温泉へと入る事にした。


「うわ~、凄く広いですね。寮のお風呂も広いですけど、それ以上ですね」


「風呂はここだけじゃないぞ、外にも露天風呂があってそっちの方が夜風に当たりながら入れるから、もっと気持ちいいぞ」


「儂は露天風呂の方が好きだな、景色も堪能できるしな」


 そう師匠とエルドさんから言われた俺は、その言葉に従うように露天風呂に向かった。

 露天風呂は、外でお風呂に入ってるという感覚で少し変な感じだかしたが、直ぐにその状況に俺は慣れた。


「どうだ。アルフ?」


「本当に来てよかったです。エルドさん、連れてきてくれてありがとうございます」


「よいよい。儂も久しぶりに行きたいと思っていたところだったからな、最近は仕事で忙しくて旅行にも行けてなかったからな……」


「父さんはもう歳なんだから、そろそろ仕事も少なくして体を労わった方がいいよ」


 エルドさんの言葉に対しエリックさんがそう言うと、エルドさんはエリックさんの顔をジッと見つめた。


「儂だって早く今の役職を次の者に引き継がせたいが、中々成長してくれんからな……」


「うっ、と、父さん……」


「何だ? 先に年寄り扱いしたのはエリックだろ? まあ、儂ももうあと数年したら60になるから、その頃までには成長していて欲しいな」


 エルドさんがニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言うと、エリックさんは「父さんは本当に意地悪な人だ」としょんぼりした様子でそう言った。

 それから暫く、露天風呂を堪能していると先にエリックさんが上がり、師匠と俺とエルドさんだけとなった。


「……」


 既に会話は終わっており、それぞれが気持ちよく入っていたのだが、途中から誰が先に上がるのかという睨み合いが始まっていた。

 俺はまだまだ余裕があるが、師匠とエルドさんの表情を見るとかなり無理をしている感じだった。


「あの、無理をして入ったら体に悪いですよ?」


「無理などしておらんぞ」


「無理なんてしてないぞ、何を言ってるんだアルフ」


 師匠とエルドさんは強がってそう言うと、額から汗をタラーと流した。

 それから10分程、今の状況が続くとエルドさんが少しフラッと頭を揺らした。

 そんなエルドさんの様子を見て、数分前に露天風呂に様子を見に来たエリックさんがエルドさんを風呂から出して上がらせた。


「……アルフ。後はお前とだな」


「いや、風呂で勝負って変じゃないですか?」


「男同士の勝負に変も何もないだろ?」


「……まあ、別にいいですけど。師匠、かなり辛いみたいですけど大丈夫ですか? 俺はまだ余裕ですけど」


 師匠がずっと辛い表情を浮かべているのに対し、俺は特に辛さも感じず未だに気持ちいいと感じていた。

 そんな俺との差に徐々に耐えきれなくなったのか、師匠はエルドさんが出て更に10分が経った時に負けを認めて先に出た。


「今回は負けたが、次は負けないからな……」


 師匠は悔しそうな雰囲気でそう言うと、先に脱衣所の方へと向かって行った。

 このまま一緒に上がると、脱衣所で変な雰囲気になるなと思った俺は、それから少し一人で露天風呂を堪能する事にした。

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