第150話 【強制休暇・3】


「この作者の人、デイビットの事をよく調べてるんだな」


 途中まで読み、俺は本を書いた作者に対してそう感じた。

 多くの〝英雄シリーズ〟の中には、作者の感情論で書かれた物もあったりする。

 しかし、この本はデイビットの考えを元にしっかりと作られている。

 デイビットの感じた感情や考えが書かれていて、その場で見ていたかの如く感じた。


「作者の名前は……フレドリック・デイビット。もしかして、デイビットの子孫か?」


 英雄シリーズに出て来る英雄達の中には、家名を持つ者もいなかった。

 そうした英雄達の子孫には、その英雄の名がそのまま家名として付けられることが多い。

 書かれた年から考えたら、デイビットの子か孫にあたるな……。

 その後も俺は本を読み進めていると、デイビットは仲間の死を経験した後、彼は仲間を作らずただ一人での戦いを続けて行ったと書かれていた。


「仲間の死を経験して、また同じ事を繰り返さない為にも仲間を作らなかったんだろうな……」


 デイビットの考えを理解しながら読み進め、大体昼過ぎまでじっくりと本を読み進めた。


「気になって買ってみたけど、かなり面白い話だったな……でも残念なのは、続きを今は読めないって事だな」


 英雄シリーズの本は一つの物語で数巻出てる事はよくある事で、デイビットの物語もまた数巻に分けて作られている本だった。

 だけど今日行った雑貨店には、これの続きらしき本は無かったから今は続きを読む事は出来ない。

 一巻で分かった事は、デイビットが〝愚者〟と呼ばれ始めた理由と仲間を作らず、ただひたすらに戦いを続けていたという事位だ。


「また何処かの本屋に立ち寄ったら、この本の続きでも探してみようかな」


 そう思う程にこの物語に惹かれた俺は、もし自分で探しても無理だったら商会の力を貸してもらおうかなと考えた。

 その後、昼過ぎまで夢中で本を読んでいた俺は、椅子から立ち上がり軽いストレッチをした。

 そして本を読んでる間は自分でも気づいていなかったが、かなり腹が減っていたので食堂に向かってお昼を食べる事にした。


「今頃、昼飯を食べてるのか?」


 昼食を食べていると、席の近くに師匠が近づいて来てそう言った。


「はい。今朝、購入した本を読んでいたんですけど、夢中になっていてご飯を食べるのを忘れていたんです」


「へ~、アルフがそこまで気にいるって面白い本だったのか?」


「俺は好きでしたね。師匠も読んでみますか?」


「アルフがそこまで気に入るなら、俺も読んでみようかな」


 そう師匠が言ったので、後で本を貸しますねと言った。


「所で師匠はどうして食堂に来たんですか? 見た所、昼食を食べに来た感じじゃないですけど」


「ああ、アルフを呼びに来たんだよ。ここに来る前にアルフの部屋に行ったが居なくて、食堂に探しに来たんだよ」


「あっ、そうだったんですね。すみません」


 態々、師匠に探させてしまった事に対して謝罪をして、探していた要件を師匠から聞いた。


「ほら、アルフを強制的に休暇をさせてるだろ? それについてエルドさんと話しをして、アルフを寮に待機させていても休み方を知らないから勝手に訓練をしそうだとって相談をしたら、旅行に行こうと言う話が出たんだよ」


「旅行ですか? えっと、それって誰が来るんですか?」


「まあ、提案者のエルドさんは絶対に行くと言ってたし、エルドさんが行くならルクリア家の人達も来るだろうな。それとエルドさん達の護衛も兼ねて、俺やフローラ達も参加はすると思うから、かなりの大所帯での旅行になると思う。多分、楽しいとは思うがアルフはどうだ?」


「是非、参加したいです!」


 師匠の話を聞いた俺は、物凄く楽しそうだと感じてそう返事をした。

 それから、昼食を食べ終わった俺は師匠と一緒にエルドさんの部屋に向かい、旅行についての話し合いに参加する事になった。

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