第106話 【二人目の白金級冒険者・2】


「すみません。訓練に夢中で気付きませんでした。もしかして、彼がアレン君の弟子ですか?」


「ええ、そうよ。剣術は私から教わってるから、フローラちゃんから見たら弟弟子になるわね」


「初めまして、アルフレッドと申します」


「フローラ・ベティアンよ。よろしくね」


 フローラさんは互いに挨拶を交わすと、手を差し出し俺はその手を握り握手を交わした。


「手の感じから、ちゃんと訓練をしてるみたいね。エリスさん、彼は強いの?」


「強いと思うわよ。アレン君が絶賛する程だからね」


「……ねえ、アルフレッド君、私と今から試合をしない? 勿論、真剣は使わず木の剣でだけど」


「もうフローラちゃん? 強い相手を見つけたら、直ぐに戦いを挑む癖まだ治ってないの? 貴女、それで何度問題を起こしたか覚えてるの?」


 フローラさんは行き成り俺に対戦を申し込むと、エリスさんはフローラさんをそう言って注意をした。


「そ、それは……」


「あまりにも他で迷惑を掛けてたから、今回呼び出しをされて謹慎を受けてるのよ? 忘れてないわよね?」


「は、はい……ごめんなさい」


 さっきまでの威勢の良さは無くなり、フローラさんはシュンッと親に怒られた子供の様に反省していた。


「あの、エリスさん? 俺は別に戦っても良いですよ」


「えっ、本当に良いの?」


「フローラちゃん? 本当に反省しているのかしら?」


 俺の言葉に対し、直ぐにフローラさんは反応すると、エリスさんは顔か笑っているが目が笑っておらず。

 フローラさんはそんなエリスさんを見て、「ヒィッ!」悲鳴を上げるとエリスさんに頭を下げて、何度も謝っていた。


「全く、アルフ君もフローラちゃんに甘くしちゃ駄目よ? この子はかなりの戦闘狂で、戦えるって分かったらずっと付きまとうわよ」


「そ、そんな事無いですよ! 私も成長したんですから」


「成長したなら、何で呼び出されたのかしら?」


「そ、それはその……」


 フローラさんは反論したが、直ぐにエリスさんから言葉を返され言葉に詰まってしまったていた。


「……あの、エリスさん。今、思い出したんですけどフローラさんってもしかして白金級冒険者の〝狂剣〟ですか?」


 そう俺が口にすると、フローラさんから強い殺気を感じたが、エリスさんがそんなフローラさんに「シッ」と言うと殺気はサッと消え去った。


「アルフ君は本当に色々と勉強してるみたいね。ええ、そうよ。フローラちゃんはその〝狂剣〟の二つ名で呼ばれているわよ」


「その二つ名は呼ばないでくださいって前から言ってるじゃないですか……」


「そう呼ばれるようにしたのは貴女が原因じゃない。私は言っていたわよ。外では人に勝負は持ちかけないようにって、それを破って色んな人に勝負を挑み。次第に狂ったように勝負を持ちかけてくる剣士という事で〝狂剣〟って、呼ばれるようになったんだから」


 あ~、あの逸話って本当の事だったのか……。

 冒険者に付けられる二つ名は、基本的にその人物のやってきた行動から付けられることが多い。

 師匠の場合は、いつも黒い服を着ているから〝黒衣の魔導士〟と呼ばれている。


「それにしても意外でした。こんな美しい人があの〝狂剣〟だなんて、俺はもっとこう野獣っぽい人なのかなと思ってました」


「名前だけ知ってるとそう思うのは当然よね。私も自分の弟子がこんな変な名前で呼ばれてるって後で聞いて、本当にあの時は恥ずかしかったわ……」


「す、すみません。でも、私も好きであの二つ名になった訳じゃないですから……」


 そうフローラさんが言い訳をしたが、エリスさんが睨むと「私が悪いです……」と直ぐに言い訳を訂正した。


「まあ、これでも実力は本物なのが不思議なのよね。色々とポンコツだけど」


「ポンコツって、師匠酷いですよ。可愛い弟子に対してそんな言い方は、弟子である私の株を下げてます」


「先に師匠の株を下げたのは、何処の馬鹿な弟子かしらね?」


 さっきからのやり取りを見ていた感じ、フローラさんは見た目は出来る女性の様に見えるが中身はちょっと抜けてる感じがする。

 ポンコツと呼ばれて反論したフローラさんだったが、エリスさんから拳骨を食らうと涙目で「ごめんなさい!」と叫んだ。


「なんか騒がしいと思ったら、フローラが帰ってたのか……」


「あっ、アレン君。久しぶり」


「ああ、久しぶりだな。さっきの会話を聞いていた感じ、全く変わってないみたいだな」


 師匠は呆れた顔で、フローラさんにそう言った。


「エリスさん、丁度良い機会ですからアルフとフローラを戦わせてみましょうよ。アルフもこの一ヵ月でかなり育ったので、白金級冒険者の中でも剣技に長けたフローラとの戦いはいい経験になると思うので」


「アレン君がそう言うなら、別に良いけど……フローラちゃん、調子に乗ったら駄目よ?」


「いくら、私が馬鹿でも分かってますよ!」


 エリスさんの言葉にフローラさんはそう言うと、そんな二人の会話に師匠が「いや、本気で良いぞ」と言った。


「……アレン君、流石に私の事を舐めてない? これでも白金級冒険者よ?」


「舐めてない。ただ手を抜き過ぎられても、アルフの訓練にならないから本気を出していいって言っただけだ。別に手を抜いてやっても良いけど、どうせ途中でお前の事だから本気を出す事になるぞ?」


 フローラさんは自分を馬鹿にし過ぎだと、師匠に反論したが師匠はそんなフローラさんに対して真顔でそう答えた。

 それからフローラさんは無言で準備を始め、空気がピリついてるが俺も準備を始めた。

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