第92話 【長期休みの始まり・4】


 エルドさんの部屋に入ると、未だに心ここに有らず状態でボーとしていた。

 そんなエルドさんの近くでエリスさんがテキパキと作業をしていて、俺が部屋に入ってくると「アルフ君、どうしたの?」と話掛けてくれた。


「はい。実はアリスとエルドさんの仲直りが出来そうなんです」


「ッ!」


「それは本当なの!?」


 俺の言葉にエルドさんは体をビクンッと反応させ、エリスさんも驚いた声で反応した。

 俺はそんな驚く二人に、先程訓練場でアリスと話した内容を伝えた。


「アルフ、本当にありがとう。命を助けてもらった次は、孫との仲も取り持ってくれるなんて……本当に儂はアルフと出会えて本当に良かった」


 エルドさんは涙を流しながらそう俺にお礼を言うと、エリスさんも「今回ばかりはアルフ君のおかげだわ」と言ってエリスさんもお礼を言った。


「アルフ。今回の件、改めてだが本当にすまなかった。折角、アリスと仲良くしてくれてるのに揶揄うような事を言ってしまって」


「いえ、その件については俺自身そこまで気にしてませんから、顔を上げてください」


 改めて謝罪をしたエルドさんは、俺に対して頭を下げ謝罪を行った。

 俺はそんなエルドさんに、そう言って顔を上げて貰った。

 その後、エルドさんとは口裏を合わせて謝罪は既にしていた事にして、俺は訓練場へと戻った。


「アルフ君、長かったみたいだけど具合でも悪いの?」


「いやっ、ちょっと戻る途中でエリスさんとバッタリ会って、少しだけ話をしていたんだ。それで遅れちゃったんだよ」


「あっ、そうなんだね。それなら、良かった」


 アリスは俺が戻ってくるのが遅くて心配していたが、咄嗟に思いついた理由で乗り切ることが出来た。

 今まで特に考えた事は無かったけど、もしかしたら俺って〝嘘〟が上手いのかもしれない。

 そんな事を思いながら、俺は訓練を再開した。


「そうだ。レオルドに朗報だよ。合宿の件、エルドさんに話をしたら来ても良いってさ」


「それは良かった。僕だけ仲間外れにされるところだったよ」


「でも、その合宿は俺のクラスメートの人達も参加するから、レオルドは少し場違い感を感じるかもだけど、それでもいいの?」


「うん。アルフの友達なら、僕も仲良くしておきたいからね。それに一人は薬師なら、もしかしたら国が欲しがるレベルに育つ可能性があるなら、先に知り合っておくのも大事だからね」


 レオルドはそう言うと、迎えに来た馬車に乗って去って行った。

 そしてアリスはと言うと、訓練場での約束通りエルドさんと仲直りをしていて、今日は早めにエルドさんも帰るみたいだ。


「兄さん、何とか全部上手く行って良かったね」


「ああ、本当にな……正直、エルドさんにはこれからは言葉には気を付けて欲しい所だよ」


 俺のその言葉にクラリスは「それはそうだね」と言い、俺とクラリスは食堂へと夕食を食べに向かった。


「アルフ。今回はお手柄だったみたいだな」


「あれ、師匠? 商会に居たんですね。てっきり、まだお家に居るのかと思ってました」


 師匠は少し前からリアナさんと赤ちゃんの面倒を見る為、休暇に入り家があるウィストの街で暮らしている。


「ちょっと顔見せに来ただけだ。エルドさんがアリスを怒らせたって重大事件が起きた事は俺の耳にも入ったから、俺が出来る事は無いけど一応来てみたけど、アルフが解決してたみたいだな」


 師匠はそう言うと、俺の頭に手を置き「よくやったな」と褒めてくれた。


「俺はそこまで難しい事はしてませんよ。アリスとちょっと話をして、エルドさんと仲直りしてもらっただけなので」


「それが難しいんだよ。あのアリスがあそこまで怒ったのは初めてで、商会の奴等が大慌てだったと聞いたぞ?」


 確かに話し合いをするレベルで商会の人達は、物凄く慌てていた。


「兄さん、ここは素直に受け取るのが正解だと思うよ」


「そうだぞ、アルフは直ぐ謙遜して難しい事はしてないと振舞うが、他の者からしたら物凄い事をしてくれたんだからな」


 クラリスと師匠からそう言われた俺は、「分かりました」と言って賛辞を受け取った。

 それから久しぶりに師匠と楽しく食事をした後、部屋に戻りクラリスの勉強に付き合い、それが終わってからベッドに横になり眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る