第70話 【動き出す者達・2】
翌日、朝食を食べた後、俺はエルドさんと二人で王城に向かった。
「師匠は来ないんですね」
「アレンには別の事を頼んでいるから、今日は儂と二人だな。こうしてアルフと二人で行動するのは、アルフと最初に会った時以来だな」
そんな雑談を馬車の中でしながら、数十分移動して王城へと到着した。
俺が最後にここに来たのは、既に一年以上も前の事で久しぶりで緊張してきた。
「元貴族とはいえ、王城は緊張するようだな」
「そりゃ、滅多に来る場所では無かったですからね。慣れる程、通ってませんよ」
そう俺は言いながら馬車を降り、エルドさんと一緒に場内へと入った。
それからメイドさんの案内である部屋に通されると、そこにはこの国のトップであり、国の王ザディス・フォン・ベリアナ様が待っていた。
「エルド、遅いぞ?」
「これでも早く来た方だ。そもそも来ただけでも有難いと思うんだ」
陛下は入って来た俺とエルドさんを見ると、エルドさんに対して文句を言った。
そんな陛下の文句に対して、エルドさんは溜息を吐き陛下を睨みつけながら言い返した。
「それと、アルフレッド君も久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです」
「やっぱり、暫く会ってなかったから緊張してるね。前に公の場以外は、友達の親として接して欲しいって約束したのに……」
陛下はエルドさんと話していた時とは違い、優しい声音でそう俺に言った。
確かにまだ俺が貴族の頃で、友人である王子と交流が会った時にそんな事は言われた。
「ですけど、今は俺はただのアルフレッドです。もう貴族でも何でもないですから、こうして陛下と普通に喋る事すら本来はしてはいけない立場の身です……」
「そんな事は無いけどね。現に儂とエルドは、言葉で殴り合うかのように会話をしているからね」
「アルフ。諦めも肝心だぞ? 儂も何度も敬うように会話をしようとしていたが、その度にこの馬鹿から詰め寄られて、結局今の感じに落ち着いたんだ」
「昔からの友人から急に〝陛下〟って、急に呼ばれだしたらむず痒いだろ? その相手がエルドって、なると気味が悪くて、元に戻す為に頑張ったよ」
苦労したよとそう言う陛下に対して、エルドさんは溜息を吐き「アルフも諦めるなら早い方が良いぞ……」と言った。
「アルフとザディスの距離感については今は良い。話し合いの時間が無くなってるぞ?」
「おっと、そうだった。今日はふざけてる時間が無かったんだったな」
陛下は悪い悪いとエルドさんに言うと、テーブルの上に資料の束を置いた。
資料の一番上には〝ノルゼニア家調査報告書〟と書かれていて、本当に国がノルゼニア家を調べているとこの時点で理解した。
「あの、陛下……ノルゼニア家って何をしでかしたんですか?」
「そうだね。アルフには話しておいた方が良いね。簡単に話すと〝暗殺未遂、反逆罪〟が主に大きな罪で、後は国に報告する内容の偽造だったりだね」
陛下の言葉を聞いた俺は、最初からぶっ飛んだ内容で何でそんな事をしたんだと混乱した。
「あ、暗殺未遂ってノルゼニア家は誰を殺そうとしたんですか?」
「アルフとエルド、後はアルフの師匠の妻であるリアナ・バルザールの暗殺未遂を起こしてる。全部、事前にエルドが何かあった時の為にと動いていたから未遂で終わって、暗殺を企てた者達は捕らえ尋問した結果、ノルゼニア家が依頼した事が分かった」
「……」
暗殺未遂の内容を聞いた俺は、自分のせいで沢山の人を危険な目に合わせてしまったと気づき、隣に座ってるエルドさんに対して頭を下げた。
「エルドさん、すみません。俺のせいで危険な目に合わせてしまいました……」
「気にするな。捨てられた貴族の子と分かっていて、儂はアルフをルクリア商会に誘ったんだ。こうなる事位は儂の経験上分かっていて、その対処も最初からしておいたから儂等は誰も傷ついておらん」
「エルドの言った通り、エルドはアルフを引き取って直ぐに行動を移して、ルクリア商会の防衛を強化していたよ。ルクリア商会は所属してる冒険者だけでも、かなりの強者揃いなのに知り合いの冒険者にも声を掛けていたね」
「儂等が傷つけばアルフが気にすると思っていたからな、そうならない為にも儂も全力で身を守る事にした。そのおかげで、早々に暗殺者を捕まえて情報を引き出す事も出来たんだ」
俺の知らない所で危険な事が起き、それをエルドさんは対処してくれていた事を知った。
俺は早く強くなってエルドさん達の為に働こうとしていたけど、俺が居る事で沢山迷惑を掛けてしまった。
何も知らないにも程があるだろ……俺は馬鹿な奴だ。
「そう落ち込むでない。今回の件は、儂が徹底的にアルフの耳に入らないようにしていたんだ。アルフが知れば、訓練に集中出来なかっただろ? それを危惧して、儂は情報をアルフに聞かせないようにしていたんだ」
「そうだよ。アルフは気になる事は何も無いよ。悪いのは、こんな迷惑な事をしたノルゼニア家なんだから」
エルドさんと陛下からそう慰められた俺だが、自分の無知さ加減に自分自身を殴り飛ばしたい気分となった。
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