第66話 【迷宮探索・2】


 それから迷宮の探索を始めて一時間が経過した。

 出て来る魔物は低級魔物な為、油断しない限りは危険な場面も無く順調にレベル上げを続けた。


「人があまり来ない場所だからか、魔物も沢山湧いてますね」


「そうだな。人気な所とかは、他の冒険者に魔物を倒されてる事が多いがこの迷宮はその心配はなさそうだな」


 人が居ない分、魔物も沢山湧いていて既に100体以上の魔物を倒している。

 この分だと、目標のレベル30まで何とか行けそうだ。


「それにしても、アルフの戦い方は凄く良いな」


「そうですか?」


「剣でも戦えるアルフだからこそだけど、接近を強いられても【剣術】で対処しているし、戦闘経験が少ない割に動きも良いからな」


 師匠からそう褒められた俺は嬉しくなり、それからも魔物を狩り続けた。

 そうして探索を続けた俺と師匠は、目的地である五層の安全地帯へとやってきた。


「さてと、外の時間的に既に陽が沈んだ頃だし、今日はこの辺で休もうとするか。明日、早めに起きて昼過ぎ位にここを出る予定だ」


「二日しか休みが無いのが辛いですね……ほぼ移動時間ですし」


「まあ、それは仕方がない。王都近くに迷宮はあるが、あっちは人も居るからな」


 俺の愚痴に対して師匠はそう言って、テントを取り出して張り始めた。

 料理当番は勿論俺で、食材を取り出して料理を始めると、ここまで人の気配がしなかったが安全地帯の入口の方に人の気配を感じた。


「……お前がなんでこんな所に居るんだ?」


 安全地帯に入って来たのは大柄で大剣を背負ったスキンヘッドの男性と、顔を隠す様にローブを被った性別不明の人だった。

 しかし、片方のスキンヘッドの男性の方を師匠は嫌な顔を浮かべながらそう言うと、男性は「久しぶりだな、アレン!」と話しかけて来た。


「師匠、あの方は知ってる方なんですか?」


「……知らん。多分、人違いだ」


 師匠は男性から目を外しながらそう言うと、男性は「共に戦った仲間を忘れたって、酷いぞアレン?」と師匠に近づき肩を組みそう言った。


「勝手に肩を組んでくんな、ダラムス!」


「ハッ、やっぱり覚えてるじゃないか? 何だ。俺に久しぶりに会えて照れてたのか?」


「誰が照れるか、ハゲ!」


「俺はハゲてねえよ! これは剃ってるんだ」


 師匠の言葉に、ダラムスと呼ばれた男性はそう言い返した。

 そんな師匠達の言い合いを見ていると、ローブを被った人が俺に近づいてくると、そのローブを取り俺に顔を見せてきた。


「久しぶり、アルフ。元気にしてたか?」


「えっ、ウィル? ウィルなのか!?」


 ローブを被っていた人物の顔を見た俺は、こんな所に居る筈のない人物の顔をしていて驚きながらそう聞いた。


「そのウィルだよ。はじめまして、アレン様。私は隣国スティア王国ルザーナ侯爵家の長男ウィルベスター・フォン・ルザーナと申します」


「ルザーナと言えば、ヴェルバ将軍の家だったか?」


「はい。ヴェルバ・フォン・ルザーナは父でございます」


「ふむ……それで隣国の将軍の息子が何でこんな所に居て、何でダラムスと一緒に居るんだ?」


 師匠はウィルとダラムスさんに対してそう聞くと、ウィルは俺の方を見て「アルフを探してました」と言い、師匠は二人に警戒心を抱いた。

 その警戒心に対し、ウィルは一瞬だけ怯んだが、直ぐに切り替えて師匠の目を見て話し始めた。


「ご心配しなくとも、アルフを隣国に連れて行くとかそう言うのでは無いです。ただ友として、行方不明となったアルフを探していたんです」


「……友達ってのは本当かアルフ?」


「はい。ウィルは俺の数少ない友人の一人です」


 俺の言葉を聞いた師匠は、二人への警戒心を緩め話を聞く事にした。

 ウィルが何故こんな所に居るのか、それは先も言った通り俺の事を探していたからみたいだ。


「元々、ノルゼニア家はアルフ達を外に連れ出す事はあまりしていなくて、僕自身アルフが姿を見せなくなって半年が過ぎた頃位にアルフが姿を見せなくなったことに気付いたんです」


「成程な、元から外に出していなかったからアルフが謹慎させられてる事実が知られていなかったのか」


「はい。それに元々、ノルゼニア家に子供が居る事実は知られていてもその姿を確認できる場が年に数回しかなく、殆どがアルフ達の姿を覚えていなかったんです」


「ノルゼニア家の事は商会でも調べていたが、同じ貴族でもアルフの事を知らない奴の方が多いのか?」


 師匠は当然の疑問をウィルに尋ねた。


「特に紹介等はしてませんでしたからね。それで話を戻しますが、アルフが消えた事実を半年後に知った僕は、まず初めに一番怪しいノルゼニア家を調べる事にしたんです」


「家が怪しいって他国の貴族から思われてる時点で、ノルゼニア家は相当ヤバいな……」


「そこに関しては、国は関係なくこの国でもノルゼニア家の教育方針に疑問を抱く方は沢山いますね」


「えっ、他の家からもそんな風に思われてたの?」


 ウィルの言葉に聞くに徹していた俺がそう言うと、ウィルは「流石に行き過ぎた教育方針だからね~」と苦笑を浮かべながらそう言った。

 それからウィルはノルゼニア家を調べる為、まず最初にクラリスに接触したと言った。。


「クラリスちゃんは昔からアルフの事を大事な家族と思っていたから、何か知ってると思ってね。そしたら、アルフが謹慎させられてる事とか家の事情を話してくれたんだ」


「クラリスはそんな事までしてくれてたのか……」


「アルフの妹は本当に兄想いみたいだな」


「はい。本当によく出来た妹です……」


 俺の知らない所でもクラリスが動いてくれていた事を知った俺は、心の中でクラリスに感謝をした。


「それでアルフの状態を知った僕は、助けようと思ったけど他国のそれも侯爵家に何かする訳にも行かないから、アルフを見守る事しか出来なかった。そこに関しては、本当にごめん」


「いや、ウィルが謝る事じゃないよ。悪いのは俺の家なんだから」


 謝罪をしたウィルに俺はそう言うと、ウィルはそれから半年間無力感を感じながら俺の事を見守っていたと言った。


「それで少し前にアルフが家から追い出されて、ようやく接触できると思ったんだけど。アルフはルクリア商会に連れていかれてしまって、また接触する機会が無かったんだ。ルクリア商会は最初からかなり、厳重にアルフの事を守っていて近づく隙が無かったんだよ」


「あれ、最初の時はそんなに厳重じゃなかったと思うけど?」


「……アルフは知らないと思うが。エルドさんはアルフを保護して直ぐに、アルフの事を守っていたぞ」


「それはもう凄いからね? 隣国からきた僕なんて本当に警戒されていたから、アルフに会わせて欲しいなんて言ったら益々会えなくなると思って、ずっとアルフの警備が薄くなるのを待っていたんだ」


 それでその警備が薄くなるタイミングが、今回の迷宮探索でウィルはようやく俺と再会出来たと話してくれた。

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