第19話 【修行開始・3】


 その後、フェルガとブラックワイバーンのクロは暫く言い合いを続け。

 互いに体力を消耗すると、その間に俺が焼いていた肉が焼き上がり、二匹は喧嘩を止めて食事を始めた。


「すんなりと我も食べ始めたが、我も食べてよかったのか?」


「うん。師匠の知り合いだし、大丈夫だよ。まあ、お肉を取って来たのは師匠だけどね」


「別に構わん。どうせ、取りに行けばまた食えるからな」


 ブラックワイバーンは自分の分の肉を食べ始めてから、自分も食べてよかったのか俺に聞いて来たので俺はそう言った。


「そう言えば、クロさん? の名前も師匠が付けたんですか?」


「我の事はクロと呼んでよいぞ。それでその質問だが、我の名はアレンに付けて貰ったものだ。この森でアレンが過ごし始めた頃に、我が戦いを挑んで負けた後に付けてもらった」


「サラッと聞きましたけど、師匠はワイバーンに一人で勝つ実力を持ってるんですね」


「白金級の冒険者だぞ? ワイバーン位は倒せて当たり前だ」


 銅級、鉄級、銀級、金級、そして最高のランクが白金級となっている。

 大体普通の冒険者は、銀級か金級で停滞する事が多いが、師匠はとんとん拍子でランクを駆け上り。

 師匠の逸話は数多く、王都で語られている。


「あのそれで、クロは名前はそれでよかったの? フェルガはシロって名前が嫌で断ったって聞いたけど」


「別に我は名にそこまで興味が無かったが、〝おい〟って呼ばれる方が嫌だと思って適当に付けて貰ったんだ」


「そうなんだ。フェルガは嫌だったみたいだけど、クロは気にしないタイプなんだね」


 見た目はいかついブラックワイバーンのクロは、落ち着いた感じで俺も特に怖いと感じる事無くそんな会話をした。

 その後、食事を終えて風呂に入り、洞窟に入り寝ようとすると、クロは住処には帰らずに洞窟の前で眠り始めた。


「師匠。ワイバーンって全部あんな感じなんですか?」


「いや、クロが特別知能が高い個体なだけだ。他のワイバーンだと、そもそもあんな風に喋るのも難しいだろう」


「そう言えば、特に気にせずクロとかフェルガと喋ってましたけど、魔物って喋れるんですか?」


 フェルガやクロは、存在自体に驚いていたが今落ち着いて考えてみると喋っているのは、どう考えても違和感がある。


「知能が高いと喋る事が出来るんだ。そういう者達の事を魔物ではなく、意思疎通が出来る魔人と呼ばれてるんだ」


「そうなんですね。色んな本を見てましたけど、魔人って初めて聞きます」


「知能が高いと何故喋れるのか。これに関して、今現在も学者達が調べてる内容だからそこまで知識が出回ってないんだ。さあ、質問時間は終わりだ。もう夜も遅いから寝るぞ」


 師匠からそう言われた俺は、「はい。勉強になりました」と言って自分の寝床に横になった。

 翌日、師匠達が起きるよりも早めに起き。

 師匠が起きないように外に出て、調理場で朝食作りを始めた。

 訓練場に来る日、食堂のおばちゃん達から要らなくなった調理道具を貰っていた。

 なので俺は料理の練習をしようと思い、今日は少し早めに起きた。


「さてと……何を作ろう?」


 正直、俺は料理なんてした事が無い。

 一応これでも貴族の子供として、15年間生きて来てそういうのは家で雇っていた者達がしていた。

 ただこの森に来てからは、包丁で肉を切ったりフライパンで焼いたりは出来るようになった。


「でも流石に焼いただけの肉は飽きて来たんだよな……確か、おばちゃん達から少しだけ食材を貰って来てるから、それを使ってみようかな?」


 修行に行くと知ったおばちゃん達は、俺に道具の他に食材もいくつか渡してくれた。

 野菜中心に食材を貰い、小瓶に詰めた塩や砂糖等の調味料も貰っている。


「う~ん……野菜スープの作り方は、おばちゃんに軽く教えて貰ったから試してみようかな?」


 そう考えた俺は、今日の朝食のメニューをボア肉の野菜スープと決め。

 材料を並べて、調理を始めた。


「スンスン……今日は肉を焼いた物ではないのか?」


「うわっ!? フェルガ。起きて来たのか、びっくりした……」


 いつの間にか起きていたフェルガは、音もなく背後に立っていて急に声がして俺は驚いた。


「うん。ずっと同じものだと飽きるからね。修行に来る前に貰ってた食材を使って、野菜スープを作ってるんだよ」


「野菜って、葉っぱか? そんなものが美味いのか?」


「俺は好きだけどね。もう殆ど出来てるから、味見してみる?」


 フェルガにそう言って俺は、フェルガ用の皿に野菜スープを盛って地面に置いた。

 フェルガは食べる前に匂いを嗅ぎ、野菜スープを食べ始めた。

 一口目は恐る恐るという感じだったが、尻尾をピンッと伸ばすと凄い勢いで全部食べてしまった。


「葉っぱだけかと思ったが、ちゃんと肉も入ってて肉の味が葉っぱに染み込んでて美味かったぞ」


「それは良かった。初めてちゃんとした料理だったから、心配してたんだよね」


 フェルガがそう言った後、俺も自分の皿に盛ったスープを食べた。

 流石に家で食べていたスープや、食堂のおばちゃん達のスープに比べたら味が落ちるが。

 それでも初めての料理にしては、かなり上手く出来た気がする。

 それから俺は朝食も出来たので、まだ寝ている師匠と料理してる間もずっと近くで寝ていたクロを起こし。

 朝飯として作った野菜スープを皿に盛って、食べ始めた。

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