第18話 【修行開始・2】


「えっ、森の王を他の魔物に任せたの?」


 あの後、ボアの処理を終えた俺はそのまま調理を行い。

 飯が出来たタイミングで師匠達を呼び、食事を始めた。

 その時に、昨日のフェルガの用事についての話を聞くと、森の王を他の魔物に渡してきたと言った。


「どうせ、我はアルフについて行くと決めていたからな。さっさと渡そうと思って、我の次にこの森で強い者に渡してきた。そいつも我と同じく、好戦的な者では無いから、この森は今までとそんな変わらないだろう」


「それなら、良いのかな?」


 フェルガの言葉にそう言うと、肉を食べていた師匠は「もしかして、クロに渡したのか?」と聞いた。


「うむ。あやつが我の次に強い魔物だからな、我が出て行くと聞いたら奴は驚いていたな」


「だろうな、元々はクロがこの森の王でお前が奪った形だからな」


 師匠とフェルガの話を聞いていた俺は、その〝クロ〟と呼んでる魔物について聞いた。


「クロはブラックワイバーンっていう魔物で、元々はそいつがここの森の王だったんだ。それをフェルガが戦いを挑んで勝利して、森の王を手にしたんだ」


「……ぶ、ブラックワイバーンですか? ここの森って、そんなにヤバいんですか?」


「んっ? アルフはこの森について、何も知らんのか?」


 俺の反応を目にしたフェルガは、不思議そうな顔をして師匠を見た。

 師匠はそんなフェルガの言葉に「まあ、ここまで聞いたら話してもいいか」と言って、この森について教えてくれる事になった。


「ここは〝深緑の森〟ってという呼び名の森で、別名〝魔の森〟と呼ばれてる所だ」


「……えっ?」


 深緑の森、それは俺が住む国〝ベリアナ〟で、最も危険な地域と言われている場所だ。

 そんな場所で俺は、修行をしているのか?


「秘密の訓練場って意味は、この場所が危険だから俺が訓練してると聞いて人が来ない為にあえて秘密にしてるんだ」


「そ、そうだったんですね……」


 俺は改めてこの場所が、どれだけ危険な場所か知り体が少しだけ震えた。

 そんな俺を見て、フェルガは「心配せずとも、我とアレンが居るから大丈夫だぞ」と俺の事を心配してそう声を掛けてくれた。

 それから食事を終えると、今日も修行を始めた。

 ここが危険な場所だと知った俺だが、近くには師匠とフェルガが居るから安心して俺は修行に集中して取り組んだ。


「……凄いな。昨日教えたばかりなのに、もう既に形になって来てるな」


 一日の修行を終え、最後にどこまで出来るようになったか見せた際、師匠は俺の出した魔法を見て感心したようにそう言った。


「ありがとうございます。師匠の教え方が上手だからですよ」


「だとしてもだ。……アルフは、言われた事を理解する処理能力が高い気がするな」


「ここに来て、教えて貰ったアレンの技をもう既に形になってきておるのか……凄まじい才能だな」


 師匠とフェルガはそう言うと、暫くはこの森で色々と教えても良さそうだという話を始めた。

 俺としても、ここで修行に没頭できるのは嬉しい。

 だけど、一つだけ問題がある。


「師匠。エルドさんから、長くても一週間と言われてませんでしたか?」


「あっ、そうだったな。忘れていた」


 修行出発する前、エルドさんの所に寄った時にエルドさんから〝期間は最長で一週間〟と言われている。

 その事を師匠は忘れているだろうなと思って言うと、師匠は俺の言葉を聞いて思い出していた。


「もし、帰って来なかったら商会の力を使って捜索をすると言っていたので、ちゃんと帰らないと大事になりますよ」


「だとしたら、ここでの修行は後三日間だけだな……」


「ふむ……だとしたら、今の魔法の腕を上げるのに時間を使った方が良さそうだな。ある程度まで出来たら、王都でも訓練は出来るのだろ?」


「ああ、最初の方は難しくて人が居る所だと厳しいが。もう少し精度を高めたら、商会の訓練場でも訓練は出来る。そこまでが今回の修行の目標にするか」


 師匠にそう言われた俺は、「はい。頑張ります!」と返事をした。

 それから修行の時間が終わり、飯の準備をしているとこの洞窟に何かが近づいてくる気配を感じた。

 それは俺だけではなく、師匠とフェルガも気付いていたが、何故か師匠達は溜息を吐き、近づいてくる気配の存在の方を見つめていた。


「やはり、アレンが居ったか」


 森の中から姿を現したのは、フェルガよりも大きな黒いドラゴン。

 こ、この魔物は、フェルガが話していたブラッグワイバーン!?

 そう驚ていると、師匠は「クロ。何の用だ?」と話しかけた。


「そこの駄犬が我が昼寝をしてる時に、王を譲ると言って去っていったから確認をしに来たんだ。……んっ? そこに居る者は始めて見るな」


「俺の弟子だ。ってか、フェルガ。話をつけたんじゃないのか?」


「別に王を元の王に戻すだけだから、伝えるだけでよかろう?」


 フェルガは師匠の言葉にそう言い返すと、ブラックワイバーンの方を見つめると。


「それと我は犬では無い、種族で言えば狼だ! 寝てばかりの駄竜が!」


 ブラックワイバーンが口にした〝駄犬〟という言葉にフェルガは怒っていたのか、怒気を含んだ声音で叫んだ。

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