第8話 秘密の約束

 家に帰った俺は部屋着に着替えた後夕食を食べ、そのまま自分の部屋へと戻る。

 それから机の椅子に座り、パソコンの電源を入れた。



「さてと、やるか」



 いつものように音楽ソフトを立ち上げ、専用のヘッドホンを頭につける。

 それからいつものように作業を始めた。



「ここの部分はこうしよう。それでここの音源はこういう音にして‥‥‥」



 中学卒業後音楽ソフトを駆使して、俺はオリジナル楽曲を作り始めた。

 作り始めて大体1ヶ月と少し経つが、今の所順調に曲作りは進んでいる。



「ここはもっと簡単にしないと、演奏できる人がいないな」



 俺が中学時代吹奏楽部に入った理由は、楽器で演奏できる所と出来ない所の境界線を探るためだ。

 楽器を使えない人がいきなり曲なんて作れるはずがないし、例え曲が完成したとしても弾ける人がいないと話にならない。

 なので中学3年間は修行の時間だと割り切って、色々な楽器で演奏できるようになる為、様々な楽器を必死になって練習した。



「このソフトにもだいぶ慣れてきたな」



 パソコンは使用した事はあったけど音楽ソフトは初めて触ったので、使い始めた当初戸惑う部分が多々あった。

 だけどそれも説明書や専門書を見ながら勉強することですぐに解消され、今では一通りの機能を使いこなせている。



「う~~~~ん、そろそろいいかな」



 夢中で作業に取り組み、気がづけば時刻は24:00をまわっている。

 夕食を食べ終えたのは20時だったので、4時間ぐらい夢中で作業をしていた。



「明日も学校があるし、今日はこのへんで終わらせるか」



 七海から学校の休み時間はいつも机で寝てると言われてしまったし、たまには元気な姿を見せるため早めに寝よう。

 そうしないと彼女が投げキッス以上のアクションを起こしそうなので、その予防線を張る意味でも必要な事だ。



「もし俺が曲を作ったら、七海は気に入ってくれるかな」



 小学生の頃、俺は七海とある約束をした。

 それはあるアーティストのライブに七海の家族と行った時の事だ。



『今日のライブ凄かったね』


『うん。凄かった』


『あたし決めた!! 将来は歌手になって、みんなに元気と勇気を与えるんだ!』


『七海ちゃんは壮大な夢を持っていて凄いね』


『他人事じゃないわよ!! 翼も頑張るの!!」


『僕も!?』


『そうよ!! あたしが歌って、翼が曲を作るの。それで今日みたいな大きな所でライブをする!! それが目標よ!!」


『僕が曲を作るの!? そんなの無理だよ!?』


『無理じゃない!! 翼はやれば出来る!!』


『僕に七海ちゃんが歌う曲なんて作れるのかな?』


『作れるよ!! あたし、翼の曲が出来るの待ってるから! がんばってね』



 俺と七海は小学生の時、そんな約束を2人でかわしていた。

 それからお互いオリジナルソングの話をしたことはない。

 ただあの話を俺が勝手に真に受けているだけだ。



「(どうすれば曲を作れるようになるのか、小学生の頭で必死に考えた末、ある考えにたどり着いたんだよな)」



 目標達成のためにやらなければいけない事として、まずは楽器を使えるようになろうと思った。

 それは俺が必死に悩んだ末、考えだした結論である。

 だから中学入学と同時に吹奏楽部に入り様々な楽器に触れ、最低限吹けるように練習した。

 それと同時に父親の部屋にあったギターを借り、ギターの練習も始めた。



「(それから今まで貯めたお年玉を使ってパソコンと音楽ソフトを買いそろえて、曲作りを始めたんだよな)」



 最初は何をどうすればいいかわからなかったけど、触っていく内に感覚を掴み今では自分の体の一部のように使えるようになった。

 そして音楽ソフトにも慣れた今年の春休み、初めてオリジナル曲を作ってみようと思い、家にいる時間を使って取り組んでいる。



「予想していたよりも大変だったけど、これなら早めに出来そうだ」



 曲を作り始めて1ヶ月経つけど、ある程度形にはなってきた。

 やるべきことは山積みだけど、これならゴールデンウイークまでには1曲作れそうな勢いである。



「明日の宿題はやったし、少し早いけど今日は風呂に入って寝よう」



 パソコンの電源を落とし、俺は椅子から立ち上がる。

 そして背伸びをしながら部屋を出て、風呂場へと向かうのだった。

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