第4話 続 いたずら好きな幼馴染

「(七海はいつまで俺の事を見てるんだよ。いい加減俺から目を離してくれないかな)」



 このまま俺の事なんて見ていたら、周りから怪しまれるだろう。

 だがそんな俺の懸念なんてお構いなしに、七海はリア充グループと話しながらも、俺から視線を外さない。



「(七海は一体何が目的なんだ?)」


「チュッ♡」


「(あいつ!? 今俺に投げキッスをしたな!?)」



 この衆人環視の中投げキッスをするなんて、何を考えてるんだよ!?

 とうの本人はいたずらっぽい笑みを浮かべて手を振って気にする素振りはない。



「(これがグループの人達にバレたらどうするつもりなんだ!? 面倒なことになるのは七海の方だろう!?)」



 あんな近くで話してるんだから、七海のおかしな行動に気づかないはずない。

 現にさっきまで話していたギャル風の女子生徒が異変に気付き、彼女の方を向いた。



「七海、今誰かに投げキッスをしてなかった?」


「えっ!?」


「(ほら言った事か。早速友達に感づかれてるじゃないか)」



 あんな大胆な事なんかして、七海の周りにいる人達が見逃すはずはない。

 現にあのギャル風の女子生徒、彼女が湊と呼んでいた人に感づかれているじゃないか。



「そんな事してないよ。湊の見間違いじゃない?」


「そうかなぁ?」


「そうだよ。そもそもこんな教室の中心で、あたしがそんな大胆なことするわけないでしょ」


「確かに。言われて見ればそうかも‥‥‥」


「いくら七海ちゃんでも、そういう大胆な事はしませんよね」


「(それがあるんだよなぁ)」



 幼い時からの付き合いだからわかるけど、七海はこういういたずらを俺によくする。

 付き合いが短い人にはわからないかもしれないけど、普段の彼女はこういう大胆な行動が出来る人間だ。



「(そういう所も俺が七海を好きなポイントなんだけどな)」



 何でも計画的に物事を進めようとする俺とは対照的な性格である七海。

 そのせいで過去何千回と喧嘩をしてきたけど、それと同じぐらい彼女に救われたこともあった。



「城山さんの言う通りだと思うよ、工藤さん。僕も水島さんがそんなふざけた事なんてしないと思う」


「夏山っちまでそういうなら、なんだかそんな気がしてきた」


「結局工藤の勘違いだったんだな! もしかして工藤ってボケ始めた? もうそんな年齢?」


「ウチがボケるわけないでしょ!! 許さないわよ、須崎!!」


「ちょっとした冗談だよ。悪い悪い」


「人の事をボケてる年増の女みたいに例えておいて、悪いですますやつがあるか!!」


「ひぃ!? ごめんなさい!!」



 夏山って人の隣にいる坊主頭の男子生徒は必死に拝み倒して、ギャル風の女子生徒に謝っている。

 だが彼女はものすごく怒っているようで、中々許してもらえそうにない。



「(あの眉間の皺と目の吊り上げ具合から見るに、しばらくは許してくれないだろうな)」



 あの男子生徒はなんて馬鹿の事をしてしまったんだ。

 もし彼があの女の子が好きでちょっかい出したいからといってやりすぎだろう。



「(さすがに冗談でもあんなことを言ったら駄目だな)」



 あのギャル風の女子生徒がいくら気さくに話せる間柄とはいえ、あの発言はいただけない。

 まだ入学して1ヶ月も経ってない間柄で、相手が許してくれるラインもわからない状態で言う発言でないことは間違いないだろう。



「まぁまぁ、湊。落ち着いて」


「そうですよ。須崎君も悪気があったわけじゃないんですから、今回は許してあげましょう」


「しょうがないな。今回は七海と楓に免じて、特別に許す!!」


「ありがとうございます!!」


「次変な事言ったら、あんたとは絶交だから!! わかった!!」


「はっ、はい!!」


「(あの子、ものすごく気が強いな)」



 もしかすると彼女は七海よりも気が強いんじゃないか?

 さっきまではずっと気さくに話していたけど、無理をしてみんなの話に合わせていたのかもしれない。



「(七海達の会話を聞いて何となくわかったけど、彼女の名前は工藤くどうみなとっていうんだな)」



 直接本人から聞いてないのでわからないけど、その名前で間違いないと思う。

 ただ実際に呼んでみて間違っていると困るから、今度それとなく七海に聞いて確認しよう。



「それよりも七海ちゃん」


「どうしたの、楓?」


「先程は七海ちゃんの事を疑ってごめんなさい。私も勘違いしてました」


「そんなに謝らないで!? あたしも全然気にしてないから」


「(いや、七海おまえはもっと気にしろよ!!)」



 さっき俺に対して、七海おまえは間違いなく投げキッスをしただろう。

 もし俺があの場にいたら、彼女の友達に君の勘違いではないと言ってやりたい。



「(俺がいないことをを言いことに調子にのってるな)」



 彼女には不用心な事をしないでほしいと注意したいけど、今は注意できるような状況じゃない。

 無言の反論をする為にもう1度彼女を見ると、彼女も俺の事を見つめていた。



「(七海? 今度は一体何を‥‥‥)」



 俺と目が合ったことがわかると彼女は笑う。

 それはまるで子供がいたずらに成功したような、無邪気な笑顔だった。



「あいつ、もっと人の目を気にしろよ」



 あのグループの人達に変な誤解をされたらどうするつもりなんだ?

 俺は何を言われようと気にしないけど、七海は違うだろう。



「とりあえず何も見なかったことにしよう。そうだ、今は宿題の見直しに集中しなきゃ」



 この後俺は熱くなっていく顔を必死に隠すように宿題の見直しをする。

 その結果次の時間宿題の答えを黒板に書くよう先生に言われたけど、なんなく正解して褒められたのだった。



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続きは明日の朝更新します


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