第3話 理想の男性像
1時間目の授業が終わった直後の休み時間、一息ついた俺は次の授業の準備をしていた。
机の中から数学の教科書を取り出し、1時間目に使っていた教科書と入れ替える。
「そういえば次の時間、宿題を出されてたな」
次の時間の担当教師この学校でも厳しいことで評判の人らしい。
周りの人達の話だとこの人が作ったテストも難しいし、宿題も毎回やってこないと厳しく叱責される。
「それにあの先生は授業中いつあててくるかわからないから嫌なんだよな」
そのくせ問題が間違っていると計算式をしつこく聞いてくるから面倒くさい。
たとえ問題の答えが合っていたとしても、問題式を理論的に説明できないと怒られるのので油断が出来ない。
「そういえばこの前夏の大会のベンチ入りメンバー発表されたんだけど、翔の奴がベンチ入りメンバーに選ばれたんだよ」
「えっ!? 夏山君って夏の大会のメンバーに選ばれたの!?」
「たまたま2年生の先輩が怪我をしたからその代役だよ。実力で選ばれたわけじゃないから、誤解しないで」
「そんなに謙遜しなくてもいいよ。夏山君が他の人達よりも実力があったから選ばれただけなんだから、あたしは喜んでも罰は当たらないと思う」
「ありがとう。水島さん」
「そうそう。七海の言う通り。運も実力のうちっていうしね」
「湊ちゃん。それだと今回選ばれたのが運だって言ってるようなものですよ」
「えっ!? 嘘!? ウチ、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど?」
「大丈夫だよ、工藤さん。僕もわかってるから」
「夏山っち、ありがとう。やっぱり優しいね」
「ありがとう。そう言われるとちょっと照れるな」
3年生を差し置いて夏の大会のメンバーに入れるぐらい運動が出来て、その上人格者。
七海達のグループにいるあのイケメン男子は何者なのだろう。
「僕も夏の大会頑張るから、みんなも応援してね」
「うん」
「もちろん」
「ここにいるみんなで応援に行くぜ」
「(みんなで試合の応援に行くなんて、仲が良いんだな)」
休み時間中も仲良く集まっている所を見ると、あの5人が主に七海と一緒にいるグループの人達らしい。
七海も入れて全員が美男美女。そして明るく社交的な人達が揃っている。
「(普通だったら1人ぐらい妬む人が出てもおかしくないのに。あの男の人は周りからの信頼が厚いんだな)」
それだけ彼が周りから慕われているという事だろう。
あのグループは彼中心に周っているといってもいい。
「(男性2人に女性3人か。女子の方が人数の多いハーレムグループなんて、本当に存在したんだな)」
男性の方が多いグループは知っているけど、女性の方が多いグループは初めて見る。
これも七海と話している男子2人がクラス内でも1、2を争うイケメンだから成り立っている事とはいえ、羨ましく思っている人達は多いだろう。
「(相変わらず七海の周りは騒がしいな)」
朝礼の前もそうだったけど声が大きすぎて、彼女達の話している内容が全て筒抜けである。
仲がいいのは悪い事ではないけど、そんなに声を張って話さなくてもいいだろう。
「それにしても、夏山っちは凄いよね。夏の大会のメンバー入りして」
「湊、どうしたの?」
「ウチもバスケ部に入部したんだけど、ベンチ入りメンバーどころかいまだに球拾いだもん。本当やんなっちゃうよ」
「私も吹奏楽部ですけど、殆ど楽器に触れてません」
「(まぁ、普通はそうだよな)」
入学したての1年生がすぐに夏の大会のメンバーに入れるなんて、そんな都合のいい事等普通は起こるはずがない。
稀にあのイケメン男子のような例外的な人がいるけど、普通の1年生は夏の大会を終えた後メンバー争いが始まる。
「(だから正直落ち込む必要はないけど、自分の周囲にいる人が大会のメンバーに入ったら焦るよな)」
頭では入れないとわかっていても、身近にそういう人が出てきたら嫉妬してしまう気持ちもわからなくはない。
「(そういう時『人は人、自分は自分』って切り替えることが重要だけど、そういうわけにもいかないだろう)」
気にしないようにはしていても、そんな切り替えが出来るような人なんて中々いない。
俺だって中学時代同じような思いをしたことがあるので、彼女達の気持ちは痛い程わかる。
「(こうなってくると周りのフォローが重要なんだけど、どうするつもりだろう?)」
特に夏の大会にも選ばれたあのイケメン男子の言葉に注目だ。
彼は一体彼女達に何を話すつもりなのか注目する。
「工藤さん、そんなに気を落とさないでよ。僕達はまだ1年生なんだから、これから頑張って練習をすればきっとメンバーに入れるようになるよ」
「そうよ湊。私達はまだ1年生なんだから、チャンスはまだあるって」
「そう‥‥‥そうだよね。だってウチ達まだ1年生だし、これからだよね!」
「私も3年生になるまでには、絶対にコンクールのメンバーに入ります」
「その意気だよ、みんな」
高身長の王子様みたいなイケメンが笑顔を見せると、周りのメンバーも彼に釣られて笑い出す。
あの弱気になっていたギャル風の女子生徒にかけた励ましの言葉も含めて、彼の笑顔一つで場が明るくなった。。
「(やっぱり彼がこのグループの中心人物みたいだな)」
イケメンで高身長の男子生徒。確か名前は夏山君? だっけ。
物腰が柔らかく中世的な綺麗な容姿をしていて、まるで王子様みたいだ。
「(女性はこういう男性が好きなんだろうな)」
容姿だけで言えば、彼は学年を通り越しこの学校でもトップクラスだろう。
運動神経もいいみたいだし、あの様子だと勉強も出来るに違いない。
「(もしかすると彼はあんまり努力しなくても、何でもできるような稀有な存在みたいだ)」
普通そんな人はいないけど、彼は何でも要領よく出来る特別な人だろう。
さっきの言動だけ見ても彼には周りをまとめて引っ張って行く力があるように感じた。
「(あのグループはクラスの中心的グループになっているんだろうけど、その人達と話を合わせられる七海はコミュニケーション力が高いな)」
場の空気を読み、誰の話でも合わせて彼女は話すことが出来る。
いつも太陽のような眩しい笑顔を振りまき周りを笑顔にするのが、
「(見た目も十分すぎる程可愛いし、普通に考えて周りも放って置かないだろうな)」
七海は中学までバスケットボールをしていたため、体も程よく引き締まっている。
容姿も目が大きて顔も小さく美人であり、思わず触りたくなるような肉厚の柔らかい唇をしている。
「(それでいて胸も制服の上からだと控えめなように見えるけど、意外と大きいのもポイントだよな)」
本人はその事を気にして普段はダボっとした服を着ているようだけど脱ぐと凄いらしい。
中学時代七海の友達がその事についてよく話していた。
「(つまるところ俺が何を言いたいかというと、七海がモテないはずがないんだよな)」
あのサバサバした男勝りな性格も相まって、彼女の人気は非常に高かった。
それこそ入学してから色んな人達に告白されたと聞く。
「(それなのに七海からはいまだに彼氏が出来たという話を聞いたことがない)」
告白されたという話はよく聞くけど、全てを断ってしまったらしい。
中学3年生になってから告白をされたという話は聞いていないけど、入学直後は色んな人達から声をかけられているみたいだ。
「そういえば、七海は部活に入らないの?」
「えっ!?」
「確か中学時代はバスケ部に入っていたんですよね?」
「そうなんだけど、あたしは高校でバスケをするつもりはないよ」
「えぇっ!? もったいないよ!! ウチと一緒にバスケやろう!!」
「ごめんね、湊。あたしやっぱり土日は家でゆっくりしたいんだ」
「あ~~~、なるほど。そういうことね。七海のその気持ち超わかるわ~~~」
「確かに部活に入っていると土日も練習が入ってるから、休む暇がないんですよね」
「うん、だからごめんね」
「う~~~~~~ん、七海がそう言うならしょうがないわね」
「その代わり部活が休みの日、みんなでどこかに遊びに行きましょう」
「いいねいいいね! そしたらゴールデンウイークの予定調整するから、みんなで遊びに行こう!」
どうやらリア充グループは遊びに行く予定を立て始めたみたいだ。俺の席の反対側の方でキャッキャウフフと楽しそうに話している。
一方の俺はというと教室の隅で必死に宿題の見直しをしていた。
「(そんなに余裕そうに話しているけど、次の時間どうなっても知らないよ)」
ただでさえあの人は宿題をやってこないと怖いんだ。
そんなのんびり話していると罰が当たるぞ。
「あっ!?」
ふと顔を上げると陽キャグループ内で話している七海と目が合ってしまう。
「(まずい!?)」
そう思い慌てて俺は宿題の答えが書いてあるノートに目を向けたが既に遅かった。
七海はグループの人達と話しながら、ずっと俺の事を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます