第2話 人気者と日陰者

「ちょっと急いでよ!! 翼のせいで遅刻しそうじゃない!!」


「何で俺のせいなんだよ!! 予定していた集合時間に遅刻したのは七海だろう!!」


「確かにあたしは遅刻をした。だけど予定の時間より遅れてることがわかっているのに、コンビニでじっくり総菜パンを選んでいたのは誰だと思ってるの!!」


「そういう七海だって、紙パックのジュースを選ぶのに時間をかけていたじゃないか!!」


「あれは翼が総菜パンを選んでいたのを待っていたからでしょ!!」


「その割には俺が総菜パンを買い終わって声をかけた時、『う~~ん、もう少し待って。レモンティーとミルクティー。どっちにするか考えてるから』って言ったのは七海だろう!!」


「しょうがないじゃない!! ミルクティーとレモンティー、どっちも好きなんだから!! 自分の体調とか気分を加味して、じっくり選びたかったの!!」



 コンビニを出てからというもの、俺達はこうした不毛な言い争いを繰り広げている。

 どっちのせいで遅刻しそうという共通のテーマについて、お互いに罪を擦り付けながら教室へと向かっていた。



「もうすぐ教室につくぞ。まだ予鈴はなってないし、遅刻したくなかったらきびきび走れ!!」


「うん。わかった」



 幸いなことにまだ予鈴が鳴ってないので、今教室に入ればギリギリ間に合うだろう。




「ゴーーーール!」


「何とか間に合ったな」



 予鈴が鳴るまでまで残り2分。本当にギリギリの時間で、俺達は教室に入った。



「幸いにも出席を取る先生もまだ教室には来ていないみたいだ」


「どうやらギリギリ間に合ったみたいね」


「よかったな。遅刻しなくて」


「うん。さすがに今回こそは遅刻すると思った」



 いつも通りの時間に着いたとはいえ、さすがに今日は肝を冷やした。

 学校最寄りのコンビニを出たのが8時18分といつもより遅かったのでだったので、本当に遅刻するかと思った。



「おはよう、七海。相変わらず登校時間のギリギリに来るわね」


「そういうあんただってギリギリに来たんでしょ、湊」


「確かにギリギリに着いたかもしれないけど、ウチは七海と違って10分も前に教室に来てるんだよ」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」


「だからウチの勝ち! 残念でした!」



 七海の周りに人が集まり始めたので、俺は七海の側から静かに去り自分の席へと向かう。

 自分の席に着くと鞄を置き、黙って1時間目の授業準備を始めた。



「(相変わらず七海は友達が多いな)」



 入学してからまだ間もないのに、既にたくさんの友達がいる。

 友達のいない陰キャボッチの俺と違い、明るくて社交的な七海は昔から友達が多い。



「(だから俺なんかが七海の近くにいても、周りから疎まれるだけだろう)」



 それこそ俺が側にいるせいで、七海の交友関係を狭めてしまうかもしれない。

 だからクラスにいる時は極力七海と関わらないようにしていた。



「おはよう、七海ちゃん。今日もいい天気ですね」


「おはよう楓! 貴方は相変わらず今日も可愛いわね」


「わわっ!? そんな抱きしめられると照れるので、やめてください!?」


「そうだよ、七海。そんなにくっつくとあんたがの汗のせいで、楓の制服が汚れるでしょ」


「ごめん、楓!? うっかりしてた!?」


「私は別に気にしてないですよ。それに七海ちゃん、湊ちゃんがいう程そんなに汗もかいてません」


「本当!?」


「はい。湊ちゃんが少し大げさに言っただけですよ」


「そうなの? 湊?」


「まぁ、世の中には楓みたいな意見の人もいるよね」


「み~~~な~~~と~~~!!」


「やばっ!? 七海が怒った!?」


「(あっちはわちゃわちゃして楽しそうだな)」



 女子同士のスキンシップとはこういう事なのか。

 手を握ったりハグしたりと過激なスキンシップを取っている。



「(いや、たぶん俺の考えは間違っているな)」



 これは女子同士というよりは陽キャのスキンシップの取り方なのだろう。

 こんな事、絶対俺には真似できない。



「おはよう、水島さん。今日も遅かったね。何かあったの?」


「夏山君、おはよう。ちょっと寝坊しちゃって」


「寝坊なのかよ!? 水島って朝に弱いんだな」


「須崎君まで。私をからかわないでよ」


「悪い悪い。ただ水島は朝弱いってことが、ちょっと意外だっただけだよ」



 先程まで女子同士で仲良くやっていた空間に男子まで混ざってきた。

 それはもう自然に。まるで初めからそこにいたかのように、彼等はそこにいた。



「(なるほどな。こうやって陽キャグループの輪は広がっていくのか)」



 先程まで七海の隣には俺しかいなかったのに、知らぬ間にクラスの美男美女を巻き込んで大きな輪になっていく。

 その様子を見て、改めて七海が周りに与える影響力の凄さを思い知った。



「まぁ、俺には関係ないがな」



 昔から俺は七海が誰と一緒にいても、あまり深入りしないようにしようと決めていた。

 彼女が誰と付き合おうとそれは彼女の自由なので、そこに俺の意志を介入させてはいけない。



「それで七海、昨日やってたあの音楽番組見た?」


「見た見た! 初めてMIKAの生歌聞いたけど、控えめにいって超最高だった!」



 唯一俺が七海に注文をつけるとすれば、もう少し静かに周りと話してほしい。。

 あれだけ大きな声で騒いでいては、俺の方にまで彼女達の会話が聞こえてしまう。



「(でも、七海が楽しそうでよかった)」



 高校に入って友達が出来るか心配だったけど、それも杞憂だったらしい。

 入学式でガチガチに緊張していたのが嘘のように周りと馴染んでいる。



『キーーンコーーンカーーンコーーン』


「みんな!! 席に着いて下さい!!」


「やばっ!? 先生が来たぞ」


「僕達も席に戻ろうか」


「うん」


「じゃあまた後で」



 慌てた様子の先生が教室に入って来た直後、七海達のグループは席へと戻る。

 そして先生が朝の挨拶を終えると、そのまま点呼を取り1時間目の授業が始まった。



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続きは明日の朝更新します


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