03 沙都子組合作

 ……その後も師走さんとの交流は続きました。

 私は前述のオリキャラ主演の長編を終え、そこそこに「雛見沢物語」の文士として認識されるようになりました。

 「そこそこ」というのは、ヒロインを知恵先生(フルネーム、知恵留美子。TYPE-MOON製作の同人ゲーム「月姫」のキャラクター、シエルのオマージュ)にしたところから、かなりの異端児扱いだったんでしょう。

 いわばゲストキャラというべきキャラをヒロインにするってどうよ……みたいな。

 まあ師走さんはそういう異端とかが好物だったみたいで(ただし師走さん自身はメインヒロインの一人「沙都子」を推していましたが)、おおむね私の作品を気に入ってくれたみたいで、その後も互いに作品を書いては感想レスを送り合う日々を過ごしていました。



 そんなある日。


「合作? 師走さんと?」


「いや。他の文士も。ぜひgyro(私のユーザ名)さんもどうかと思って」


 当時の「ひぐらしのなく頃に」の公式掲示板には、主人公「圭一」と、自分が好きなヒロインとのカップリングを推すスレッドがありました。

 すなわち、「レナ」「魅音」「沙都子」「梨花」という四人それぞれとのカップリングです。他にも女性のキャラクターはいましたが、「圭一」との関係が濃いのはこの四人だったため、この四人のそれぞれについて、推す人たちのスレッドがあったのです。

 ちなみに私は最初、「魅音」を推していましたけど(デビュー作のヒロインも「魅音」だった)、その頃は知恵先生を推していたので、特にその「四大スレッド」に加わることもなく、のんびりと過ごしていました。

 師走さんは「沙都子」のスレッドに参加していました(たしか「沙都子組」というスレッドでした)。

 で、その「四大スレッド」で、お互いにそれぞれの推しのカップリングをテーマに作品を発表しようという、いわば公式掲示板の文化祭、みたいなノリの機運が高まっていたのです。

 当時「ひぐらしのなく頃に」は完結したため(正確には解決篇「ひぐらしのなく頃に解」が終わったため)、みんな同じゲームをプレイして、共に泣き、共に笑った「仲間」みたいな雰囲気が醸成されておりましたので。


 当初、師走さんとのやり取りは、作品への感想レスで行われていましたが、そのうちにチャットを使おう、ということになりました。

 今でいうLINEのようなものです。

 しかしインターネット上の掲示板の使用も初めてであれば、作品の投稿も初めてで、チャットも初めてです。

 われながら、随分と嵌まってしまったもんだと思いました。

 とにかく、教えてもらったアドレスにアクセスして、私は人生初のチャットに挑みました。


「……カオスだ」


「どうしたの?」


 師走さんは相変わらずマイペースでしたが、何しろインターネット上で知り合って、顔も名前も知らない、匿名上の相手とのやり取りです。

 繰り出されるネタの嵐、具体的にはジョジョネタ。

 会話しようと思うと、そういうネタが挟まって、ネタにはネタで応えねばと、さらにネタが飛ぶ。

 ……今のLINEでもあまり変わらない展開ですね。

 そうこうするうちに「個室」チャットも整備されて(誰かがレンタルしてくれたネット上のスペース)、必要に応じてそこで話すようになりました。


「合作と言っても、何を書けばいいのやら」


 アウトラインを提示して、それに対して意見を述べ、フィードバックして、さらにストーリィ構築を進める。

 そんな、何か仕事のようなやり取りをして、合作のストーリィラインが出来上がりました。

 そこからパート分けをして、私は最初の方の、つまりオープニングのあたりを受け持つことになりました。

 ……当時は何気なく「頭の文章か」と思っていましたが、よく考えるとある文章の「頭」を書くのって、かなりの大任です。

 何とか書き終えてそのパートを提出すると、


「任せて良かった」


 と言われたことをよく覚えています。

 そうこうするうちに、他のカップリングのスレッドの作品も投稿され、「ひぐらしのなく頃に」の公式掲示板は盛況を迎えました。

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