第51話 絶対カオスですって!乙女ゲーム 6(後編)

ヒューゴはルートヴィッヒを見つめておもむろに云った。


「勿論陛下の勅命は分かっております…が、魔法管理省を司るバランタイン家と表立って対立するのは良いやり方とは言えません」

「ストレートだな」


ルードヴィッヒは少し苦笑し執務室の机をトントと指先で叩きから椅子から立ち上がった。


ヒューゴの元にゆっくりと歩く。


ルートヴィッヒ自身もだいぶ身長が伸びたとは言え、騎士団長であるヒューゴは、さらに頭半分の長さ分背が高い。

身体も鍛えているため、ただ立っていても威圧感があった。


「殿下…」

尚も言いつのろうとするにヒューゴに

「この件は終わりだ」

とルートヴィッヒは手を挙げて止めた。


「それより…建国祭にローゼリットを連れていく為にお前に手伝って貰いたい」


ルートヴィッヒは、やや挑戦的にヒューゴを見上げた。


 ーーーーー


ルードヴィッヒは侍従は付けずに、ヒューゴを伴って地下牢へ向かって歩いた。


後ろから付いて来るヒューゴを振り返りつつ、ヒューゴに尋ねる。

「お前も気になっていただろう?…一体彼女が何者なのか?」


地下牢の入口で衛兵に声を掛け、地下牢へ降りるための扉をくぐり滑りやすい石畳の階段を下って行った。


日の光の入らない地下牢はジメジメとしている。

 

換気がよくないため、時折溜まった水などが腐ったことによる悪臭もするが、

皇太子は気にする様子も無く通路の奥へ歩いて行った。


「殿下…彼女をずっとここに閉じ込めているわけじゃ…」

ヒューゴはルートヴィッヒに尋ねた。

(とても…ご婦人がいる環境ではないぞ)


だが、ここではない」


ルートヴィッヒは真面目に答えて、そのまま真っ直ぐに地下牢のさらに明かりの無い通路の奥まで歩いていった。


通路の突き当たりには壁があるが、ルートヴィヒはその壁に手をかざし、自分の名を唱えた。


どうやらそこは魔力でしか開かない隠し扉になっているらしい。

その扉が呪文に出現すると、ルートヴィッヒはその扉を重い音を立てながら開いた。


中の空間は、真っ暗で全く灯りが点いていない様だ。


ルートヴィヒは手持ちのランプに火をつけると扉をくぐり、中に入って行った。

続いてヒューゴもそれにならおうとすると、ルートヴィヒは

退魔の剣二ギライは外に置いてくれ」

と言った。

 

一瞬躊躇ったが、ヒューゴは剣とベルトを外し外の壁に立て掛けた。


掲げたランプのわずかな光が室内を照らす。

殆ど光の届かないそこは広いが何もない部屋だった。


壁や床は石でできているようだがなめらかで凹凸がない。

ヒューゴは 部屋の奥へと一歩前に出た。


すると、真っ暗な部屋の向こうから明らかに女性と思われる声がした。


「だあれ?誰かきた?」

「なんと…」 


ヒューゴも学園で聞いたことがあるローゼリットの声だった。


「オレだ」

ルードヴィッヒが言うと、暗い空間の奥から重い金属音を引きずる音と共に、本物のローゼリットが姿を現した。


彼女が纏っているのは、ピンクの簡素なワンピースドレスで両足はまさかの裸足だ。


桃色のふさふさの髪は乱れ、赤がかったピンクの瞳はランプのわずかな光に反射して煌めいている。


「わお、ヒューゴじゃん。久しぶりだね」

ヒューゴを見上げたローゼリットは、少しふざけた様に云った。


彼女は両手首、足首に金属の枷がつけられ、それが暗い部屋の向こうまで伸びているが、繋がれた先は全く見えていなかった。


「ねえ、ルートヴィッヒ。いつまでこんなひどいところへ閉じ込めるつもりなのさ」

ローゼリットは小首を傾げてルートヴィッヒに尋ねた。


 ーーーーー


最初は皇宮の客間の一室に監禁したのだ。

『ここで大人しくしてて欲しい。何でも好きなものは与えるから』と丁寧に対応したつもりだった。

それを…。


ルードヴィッヒはローゼリットを見下ろして云った。

「お前が侍従やメイドたちに魔力を使って惑わせ、部屋から脱走しようとするからじゃないか 」

「最初から嫌だって言ってるのに、あんたたちが監禁したからでしょ!」

とローゼリットはまくし立てた。


「建国祭には移動する。お前の望みどおりここから出て、大聖堂の方にだ 」

「そっちに移動してどうするってのさ」


「オレは知らない。計画の詳細は聞かされていないからな」

(今回の計画はほぼ父上とサヴォー教との間でされている)


ルートヴィッヒは、父王の言うがままに行動しているだけなのだ。


「ヒューゴ初めほかの皇族に王位を横取りされず、スムーズに皇帝になりたくば、お前は大人しく見ていれば良い」

ルートヴィッヒは父王から厳命されたのだ。


ローゼリットは大きくため息をつくと

「ね…ルートヴィッヒ。あの日にも言ったけどあたしはあんたのおじいさんに会いたいだけ。あんたたちの国をどうこうしようなんて思っていないよ」

と言った。


「こんなことをしているうちに、あたしは魔力を封じられても感じるんだ…。あんたのおじいさんの力が病で少しずつ弱まっていくのを」


ローゼリットは少しずつルートヴィッヒに近づいた。

ジャランと枷の金属音だけが響く。

 

ハッと気づいたヒューゴが警戒し、ルートヴィッヒの前にでようとするが、ローゼリットは「今のあたしは人間と同じだよ」と制した。


「お願いだよ。あたしはあの人に会いたいだけ。…最初にと間違ったのは見た目だけの偶然じゃない。あんたは優しい子。ひとの痛みが分かる…あの人とおんなじ」


ルートヴィッヒの肩がびくりと小さく動いた。

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