第49話 リエルスターリゴスゴメール 『囁くだけの』(*おまけ)

ボクはまだ窓辺に座って彼女を見ていた。


「…わたしリリスの本当の名前を知っているもの」

「へえ…そうなの…?」

「リエルスタリゴスゴメル…でしょ?」


彼女はうとうとしながら、眠りに落ちるまで、ボクととりとめのない話をしていた。

その姿は寝台の灯りに照らされ、無防備に…そして扇情的にも見える。


本当に大昔だが、どうしようもない自身の渇きを癒す為に、こうやって人間の(もしくは他の種族の)家に忍び込み交わり、力を得ていた時代を思い出す。


わずかな体液を求めて、夜毎繰り返していた。

(今となっては煩わしく面倒で、二度とやりたくない黒歴史だ)


あの時は非効率で、餓えも満たされない行為だと心底軽蔑していたが。

(最早『それでもいい』と思う自分がいるなんて)


ボクは可笑しくなって笑ってしまった。


本当におかしな話だ。

彼女には魔力はない。

 

ボクの食事には成りえない。

他に幾らでも指先ひとつで魔力を吸い上げる対象はいるのだ。

先程部屋を訪れたメイドの女のような。


この娘にわずかでも魔力があれば、今ここで抱く理由ができるのに。


(なぜこんなにも…この娘が欲しいんだ?)


けれどこれは間違いなく自身の渇望だった。


この小娘ジェニファーが、夢魔リエルスターリゴス始祖ゴメールである自分の本能を…なんて誰が信じるだろう?


ジェニーはもう眠りに完全に落ちそうだ。


彼女の長い柔らかそうな髪の一部が、額に影を落としている。


それを直そうと手を伸ばし、途中で止めた。


それはボクの役目ではない。

彼女の恋人か夫がやればよいのだ。

 

…ボクがするのは『囁く』だけ。

はゆっくり彼女に近づいた。


「ジェニファー」彼女の耳元で囁く。

彼女は「…ん」と小さく呟き軽く寝返りを打った。


もう一度唇が耳に触れそうな距離まで近づく。

「ジェニー…」


(彼女の切なげな表情が好きだ…もっと見たくなる)


「―ボクの名前を呼んで」

いますぐにでも、快楽に沈むこの娘の声が聞きたくて仕方無いのは何故なのか。


「…呼んでよ」

はリリスの吐息を言葉と共に耳の奥へ奥へと送り込む。


ジェニーは微かな声を上げて反応し始めた。


私の名を呼びながら、何度も何度も登りつめては達する彼女を見て、何故こんなに手離したくないと思ってしまうのか。


この感情はいったい何なのか。

それがには判らないまま、彼女の耳元で囁き続けた。

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